ワードには、ドキュメントをPDFに変換し保存するエクスポート機能があります。

しかし、PDFの画質が想定以上に悪くなる場合や、ファイルサイズが大きくなってしまうことがあります。

このほか、Word2016以降のバージョンではしおりの表示がおかしくなる場合があります。

そこで、この記事では以下の3点に焦点をあて、無料で利用可能な4つのPDF変換方法を調査し、比較します。

  • 画質劣化を避ける
  • ファイルサイズを小さくする
  • しおりを正常に表示させる

ワードのエクスポート機能でPDF変換

Word2007以降のバージョンには、ドキュメントをPDFに変換し、保存するエクスポート機能があります。

Microsoft365での変換方法を見てみましょう。

やり方

まず、タブ「ファイル」をクリックします。


メニューのうち「エクスポート」をクリックします。


「PDF/XPSの作成」ボタンをクリックします。


表示されたダイアログの右下のラジオボタンが「標準(オンライン発行および印刷)」になっているのを確認したら、「オプション」ボタンをクリックします。


このオプションのうち、「次を使用してブックマークを作成」にチェックが入っていると、PDFにしおりが作成されます。


これで、「OK」、「発行」ボタンをクリックすれば、PDFが作成されます。

ちなみに「最小サイズ(オンライン発行)」のオプションを選ぶと画像の解像度が下がり、画像の画質が落ちます。


特徴

オプション画面に表示されていませんが、PDF変換すると、画像部分が圧縮され、画質が下がります。

この圧縮方法のオプションは 2択で、「標準(オンライン発行および印刷)」と「最小サイズ(オンライン発行)」のことです。

「標準(オンライン発行および印刷)」の画質は、JPEGの場合、解像度150ppiで圧縮した画像と同程度になります。

「最小サイズ(オンライン発行)」の場合は、96ppiで圧縮した場合と同程度になります。

標準(オンライン発行および印刷)
最小サイズ(オンライン発行)


ベクター画像であるEMF形式も、圧縮されるため画質が劣化します。

オプションで「標準(オンライン発行および印刷)」を選択した場合は、画像内の字を読むことができます。しかし、「最小サイズ(オンライン発行)」の場合の文字は完全に判読できなくなっています。

標準(オンライン発行および印刷)
最小サイズ(オンライン発行)


ファイルサイズについて、私がワードで書いた論文を使ってPDFに変換したところ、次のとおりとなりました。論文概要版は4ページ、論文は83ページのワードドキュメントです。

論文概要版 論文
ワードドキュメント 1,427 KB 3,898 KB
標準(オンライン発行および印刷) 684 KB 4,551 KB
最小サイズ(オンライン発行) 574 KB 1,658 KB

また、下記の記事のとおり、ワードドキュメントで「見出し」スタイルを設定していても、PDF変換後の「しおり」に正しく変換されない場合があります。

ワードをPDF保存した時の「しおり」についてのバグと対処方法

ワードをPDF保存した時の「しおり」についてのバグと対処方法

この記事では、Microsoft Word2016でドキュメントをPDF保存すると、「しおり」がおかしい表示になるバグと、その対処方法について紹介します。


この方法を使うべきドキュメント

ワードのPDF変換機能は、ページ数が少ないドキュメントをPDFに変換するのに向いているでしょう。

ページ数が少なければ、ファイルサイズもメールで送付できなくなるほど大きくならないはずなので、後で紹介するような圧縮率の高いアプリをわざわざ使う必要もありませんし、しおりも不要でしょう。

言い換えれば、しおりが正しく作成されないことがあるため、論文やマニュアル等の長文をPDF変換する場合には向きません。


「Microsoft Print to PDF」でPDF変換

Windows10には、様々なファイルをPDFに変換するための仮想プリンター「Microsoft Print to PDF」が備わっています。


やり方

印刷のオプションで「Microsoft Print to PDF」選択し、印刷するだけでPDFが作成できます。


解像度やしおりなどのオプションは何もなく、PDF出力する機能しかありません。


特徴

ワードのエクスポート機能の出力結果と、Microsoft Print to PDFの出力結果と比較したところ、JPEG画像については下図のとおり差があるようには見えません。

エクスポート機能 標準(オンライン発行および印刷)
Microsoft Print to PDF

ベクター画像のEMFファイルを比べると、「ワードのエクスポート機能」では一部の文字が判読できませんでしたが、「Microsoft Print to PDF」の画像ではすべて判読できるようになりました。

エクスポート機能 標準(オンライン発行および印刷)
Microsoft Print to PDF

ファイルサイズは、「ワードのエクスポート機能」の出力結果より大きくなりました。画質が改善したので当然の結果だと思います。

論文概要版 論文
ワードドキュメント 1,427 KB 3,898 KB
標準(オンライン発行および印刷) 684 KB 4,551 KB
最小サイズ(オンライン発行) 574 KB 1,658 KB
Microsoft Print to PDF 915 KB 6,897 KB

PDFにしおりを設置するオプションはありません。ワードのエクスポート機能では実現可能であった「ハイパーリンク」も設定できません。


この方法を使うべきドキュメント

ファイルサイズが大きくなってしまうが、画質がワードのエクスポート機能の結果より良いので、画質にこだわるなら利用する価値があります。

しおりを設置できないので、長文には向いていません。


アプリ「CubePDF」でPDF変換

ワードのエクスポート機能やMicrosoft Print to PDFで、論文やマニュアル等の長文をPDF変換すると、ファイルサイズが大きくなってしまいます。

この点を解決できるのが、無料のPDF変換アプリCubePDFです。


やり方

まず、下記のWebサイトにアクセスし、CubePDFのインストール用ファイルをダウンロードします。

https://www.cube-soft.jp/cubepdf/

CubePDFをインストールすると仮想プリンターが追加されます。


ドキュメントをこの仮想プリンターで印刷するとCubePDFのダイアログが表示されます。


このダイアログで、解像度やJPEG圧縮など色々な設定が可能です。


特徴

オプションのうち「PDFファイル中の画像をJPEG形式で圧縮する」は初期設定でチェックが入っています。

このままPDFに変換したところ、ドキュメント内のJPEG画像の画質は、ワードのエクスポート機能と同等でした。

エクスポート機能 標準(オンライン発行および印刷)
CubePDF JPEG圧縮オン

一方で、EMF形式の画像の画質はワードのエクスポート機能に比べ、かなり良くなります。Microsoft Print to PDFの出力結果と同じになります。

エクスポート機能 標準(オンライン発行および印刷)
CubePDF JPEG圧縮オン

CubePDFで4ページしかない論文概要版のワードドキュメントから変換したPDFのファイルサイズは、紹介する方法の中で最も小さくなります。

論文概要版 論文
ワードドキュメント 1,427 KB 3,898 KB
標準(オンライン発行および印刷) 684 KB 4,551 KB
最小サイズ(オンライン発行) 574 KB 1,658 KB
Microsoft Print to PDF 915 KB 6,897 KB
CubePDF 217 KB 3,977 KB

ちなみに、オプションのうち「PDFファイル中の画像をJPEG形式で圧縮する」のチェックを外すと、画像が圧縮されなくなり、高画質なPDFを出力することができます。ただし、ファイルサイズは当然大きくなります。

PDFにしおりを設置するオプションはありません。ワードのエクスポート機能では実現可能であった「ハイパーリンク」も設定できません。

この方法を使うべきドキュメント

CubePDFは、画質の劣化を抑えつつ、長文のワードファイルを小さいファイルサイズのPDFに変換したい時に使うべきでしょう。

また、ファイルサイズの大きさを意識せず、画質の劣化防止を最優先にするなら、CubePDFが唯一の選択肢です。

なお、よく似たアプリで「PDFCreater」がありますが、以下の3点が異なるだけで、その他は同じでした。

  • PDFCreaterはパスワード設定する時に他のオプションを設定できないが、CubePDFは解像度や圧縮方法などを設定できる。
  • PDFCreaterはPDF/Aに変換できるが、CubePDFはPDF/Aに変換できない。
  • PDFCreaterはWeb用の最適化ができないが、CubePDFはWeb用の最適化ができる。


Webサイト「Adobe.com」でPDF変換

PDF変換のオンラインサービスでは、まだ日本語に十分対応できていないものが多く、フォントがすべてゴシックになってしまったり、行間が広がってしまうことがあります。

そんな中、2022年8月時点で、唯一優れたPDF変換を実現できるサイトがAdobe社の「Adobe.com」です。


やり方

下記のサイトにアクセスします。

https://www.adobe.com/jp/acrobat/online/word-to-pdf.html

サイトのアクセスすると、ファイルを選択する画面になります。


変換したいワードファイルを選択します。


ファイルを選択するとアップロードされ、PDFへの変換が始まります。

オプションはなく、PDF変換が完了したら、ダウンロードするだけです。


特徴

画像を圧縮する方法のオプションはありませんが、Adobe.comで変換されたPDFの画質はJPEG形式でもEMF形式でもかなり良いです。

Adobe.comで変換したPDF内のJPEG画像は、ワードのエクスポート機能の出力結果より明らかに劣化していません。

エクスポート機能 標準(オンライン発行および印刷)
Adobe.com

EMF形式のベクター画像は、Microsoft Print to PDFやCubePDFの出力結果より良い画質です。

CubePDF JPEG圧縮オン
Adobe.com

Adobe.comで変換されたPDFのファイルサイズは、ワードのエクスポート機能でPDF変換した場合と同程度です。

論文概要版 論文
ワードドキュメント 1,427 KB 3,898 KB
標準(オンライン発行および印刷) 684 KB 4,551 KB
最小サイズ(オンライン発行) 574 KB 1,658 KB
Microsoft Print to PDF 915 KB 6,897 KB
CubePDF 217 KB 3,977 KB
Adobe.com 648 KB 4,144 KB

Adobe.comは、この記事で紹介している方法のうちで唯一「しおり」も「ハイパーリンク」も正しく設定することができます。

欠点は以下の2点でしょう。

  • 1日1ファイルのみ変換可能なことです。2つ目のファイルを変換しようとするとPro版の定期サブスクリプション契約を促す画面が表示されダウンロードできません。
  • Webにアップロードしなければならないので、情報漏洩リスクがあります。


この方法を使うべきドキュメント

Adobe.comは、しおりやハイパーリンクを設定すべき論文やマニュアルなどの長文をPDFに変換する時に向いています。

Webへファイルをアップロードする必要があるため、情報漏洩リスクが気になるなら、有料のAdobe AcrobatをPCにインストールするしかないようです。


まとめ

調査結果をまとめると、下表のとおりです。

エクスポート機能 Microsoft Print to PDF CubePDF Adobe.com
画像の画質
ファイルサイズ ×
しおり × ×

ワードのエクスポート機能は、ちょっとした文書をPDFに変換するときに使えます。ページ数が少なく、しおりが不要で、画像の劣化を気にしないなら、一番手軽に使える方法です。

Microsoft Print to PDFは、ワードのエクスポート機能より良い画質を求めるなら、最適な方法です。ただ、ファイルサイズがやや大きくなることに気を付けなければいけません。

CubePDFは、しおりや内部リンクが不要で、ファイルサイズをより小さくしたい時に使います。また、画像の劣化を最小限にしたい時にも使える方法です。PCにインストールする必要がありますが、オンラインサービスよりセキュリティ面では優位です。

オンラインサービス「Adobe.com」は、1日1ファイルしか変換できませんが、しおりが必要な時に使う方法です。画質が良いにも関わらず、ファイルサイズはワードのエクスポート機能と同程度にする優れた方法です。しかし、WEBにアップロードせざるを得ないので、情報漏洩のリスクがあります。

どれも一長一短ですが、無料なので割り切って使いましょう。