この記事では、河川護岸に設置される「大型ブロック積擁壁」をエクセルで設計計算した結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

これから解説する内容は、社団法人日本道路協会が平成24年7月に発行した道路土工擁壁工指針(以下、H24道擁という。)に基づいている。

今回の紹介する設計プロセスは「擁壁上の嵩上げ盛土なし、砂質地盤、擁壁高さ8m以下」が適用範囲である。(H24道擁p27, 89)

下記の画像は、設計のフローチャートである。

1. 設計条件

1-1. 形状寸法

  • 全高:$H=6.100\ \mathrm{m}$
  • 直高:$H'=5.800\ \mathrm{m}$
  • 天端幅:$b=1.100\ \mathrm{m}$
  • 天端厚:$h_b=0.300\ \mathrm{m}$
  • 基礎幅:$B=1.300\ \mathrm{m}$
  • 基礎厚:$h_B=0.300\ \mathrm{m}$
  • 基礎前面天端幅:$B_f=0.100\ \mathrm{m}$
  • 基礎後面天端幅:$B_b=0.100\ \mathrm{m}$
  • 勾配:$n=0.4$
📌NOTE
  • もたれ式擁壁に準拠した大型ブロック積擁壁の勾配は、直高により決定します。(H25道擁p161,175)
  • H24道擁の記載は、目安とされていますが、大きな問題がない限りはH24道擁に従うべきでしょう。

1-2. コンクリート規格

  • 設計基準強度:$\sigma_{ck}=18\ \mathrm{N/mm^2}$
  • 単位体積重量:$\gamma_c=23\ \mathrm{kN/m^3}$(H24道擁p52)
  • 無筋コンクリートの許容圧縮応力度:$\sigma_{ck}/4=4.50\ \mathrm{N/mm^2}$(H24道擁p81)
  • 無筋コンクリートの許容曲げ引張応力度:$\sigma_{ck}/80=0.23\ \mathrm{N/mm^2}$(H24道擁p83,143)
  • 無筋コンクリートの許容せん断応力度:$\sigma_{ck}/100+0.15=0.33\ \mathrm{N/mm^2}$(H24道擁p83,144)

1-3. 裏込め材料

  • 裏込め土:礫質土
  • せん断抵抗角:$\phi=35\ \mathrm{° }$(H24道擁p66)
  • 単位体積重量:$\gamma_s=19\ \mathrm{kN/m^3}$(H24道擁p66)
  • 単位体積重量(水中重量):$\gamma_s’=\gamma_s-9=10\ \mathrm{kN/m^3}$(H24道擁p66)
  • 粘着力:$c=0\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p66)

1-4. 支持地盤

  • 土質:砂質地盤(密なもの)
  • 底面と地盤の摩擦係数:$\mu=0.6$(H24道擁p70)
  • 付着力:$c_B=0\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p70)
  • 許容鉛直支持力度(常時):$q_a=300\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p68,69)
  • 中間層に軟弱な土層あるいは液状化が懸念されるゆるい砂質土層:なし

1-5. 上載荷重と地下水位

  • 上載荷重:$q=10\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p53)
  • 地下水位(最も不利な条件で設定):$h_w=3.700\ \mathrm{m}$
  • 水の単位体積重量:$\gamma_w=9.8\ \mathrm{kN/m^3}$
📌NOTE
  • ブロック積擁壁には、直接輪荷重がかからないよう規定している団体があります。
  • 近畿地方整備局のWebサイトで公開されている「設計便覧(案)ー第3編道路編ー第3章擁壁ー第2節 設計計画(参考)」には、上記の規定が図で示されていますが、大型ブロック積適用の留意事項も記載されています。
  • 今回の設計例では、留意事項のとおり、もたれ式擁壁に準拠した大型ブロック積擁壁であるため、直接輪荷重がかけられる擁壁として設計します。
  • 地下水位は、最も不利な条件で設計する必要があります。このため、水位を$0.1 \mathrm{m}$きざみで変化させ、通常、滑動に対する照査が最も危険側になる水位を捜索することになります。

1-6. 使用材料(大型ブロック)

  • 水平幅:$0.835\ \mathrm{m}$
  • 高さ
    • 最上段:$0.500\ \mathrm{m}$
    • 最上段以外:$1.000\ \mathrm{m}$
  • 段数(最上段除く):5段
  • 裏込めコンクリート厚:$0.265\ \mathrm{m}$
📌NOTE
  • もたれ式擁壁に準じた構造の大型ブロック積擁壁では、背面勾配と直高に応じて最小控長を定めるのがよいとされています。(H24道擁p174,175)
  • 上記の使用材料の場合、最小控長は$0.12H'=0.12\times 5.8 = 0.696 \ \mathrm{m}$となります。
  • 一方、使用材料の控長は$0.835/ \sqrt{1+n^2}=0.835/\sqrt{1+0.4^2}=0.775$となります。
  • メーカーによっては、この最小控長以下の寸法で設計される場合もありますので、擁壁自体の安定性の照査と、部材の安全性の照査で、それぞれ問題がないか確認すべきでしょう。

1-7. 重要度区分と要求性能

擁壁は、その重要度に応じて設計照査の方法(耐震設計の基本方針)を区分している。(H24道擁p42)

  • 重要度1:万が一損傷すると交通機能に著しい影響を与える場合、あるいは隣接する施設に重大な影響を与える場合
  • 重要度2:重要度1に該当するもの以外

この設計計算例では、「重要度2」とする。

擁壁の要求性能とは、「擁壁の壊れにくさ」を定義しており、例えば「性能1」であれば、大震災後でも、健全性が保たれ道路を通行することができるほど壊れにくいということである。

要求性能は、3段階に区分されている。

  • 性能1:擁壁としての健全性を損なわない
  • 性能2:損傷が限定的なものにとどまり、擁壁としての機能の回復が速やかに行い得る
  • 性能3:損傷が擁壁として致命的とならない

この設計計算例では、重要度より要求性能を下記のとおり決定する。(H24道擁p44)

  • 常時の作用:性能1
  • 降雨の作用:性能1
  • レベル1地震動の作用:性能2
  • レベル2地震動の作用:性能3
📌NOTE
  • 公益社団法人日本道路協会のWebサイトに「道路土工構造物技術基準・同解説(平成29年3月)」出版後の道路土工指針等の取扱いについて記載されています。
  • 同文書の3ページ目には、擁壁工に関する読み替えの例が記載されています。
  • 内容は、「擁壁の要求性能」、「擁壁の限界状態」について読み替えの例となっています。

1-8. 設計方法と照査方法

設計方法は、「H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)」とする。

照査は、「擁壁の安定性」、「部材の安全性」、「排水工、付帯工」の3つに分けて行う。(H24道擁p88)

1-8-1. 擁壁の安定性

「擁壁の安定性」は、さらに「擁壁自体の安定性」、「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安全性」に分けられる。

1-8-1-1. 擁壁自体の安定性の照査

「擁壁自体の安定性」について、H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、所要の性能を確保するとされており、例えば「常時の作用に対して性能1」を満足するとみなしてよいとされている。(H24道擁p88)

また、擁壁高$H \leqq 8\mathrm{m}$の場合、「常時の作用で照査」すれば、「レベル1地震動の作用に対して性能2」、「レベル2地震動の作用に対して性能3」を満足するとされている。(H24道擁p89)

よって、今回は「擁壁高$H \leqq 8\mathrm{m}$」かつ、「重要度2」であるため、「レベル1地震動の作用」と「レベル2地震動の作用」に対する安定性照査は不要となる。

さらに、今回は「排水工を適切に設置すること」を前提とし、「水位より上での擁壁背面からは水圧の影響を考慮しない」こととする。(H24道擁p55)

このため、「降雨の作用」については、通常、常時の作用における荷重の一項目として扱うが、今回はその荷重がないため、降雨に作用に対する照査を省略する。(H24道擁p49,88)

1-8-1-2. 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性

「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性」については、「1-4.支持地盤」に示したとおり、検討を要する層がないため、検討は不要となる。(H24道擁p111)

1-8-2. 部材の安全性

部材の安全性についても、擁壁の安定性と同様に、H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、所要の性能を確保するとされている。

擁壁を構成する部材の定義は、「躯体、底版及び杭等」とされている。(H24道擁p142)

もたれ擁壁に準じた大型ブロック積擁壁の場合、部材の安全性照査は躯体のみであり、各段のブロック下部を照査断面位置とし、それを固定端とする片持ばりとして設計・照査する。(H24道擁p166,170)

1-8-3. 排水工、付帯工

排水工は、上述の降雨による照査が不要となるようH24道擁p203の「5-9 排水工」に従い適切に設計するとこととする。

付帯工は、H24道擁p212の「5-10 付帯工」に従い設計することとする。

1-8-4. まとめ

まとめると、今回の設計例での設計方法と必要な照査は以下のとおり。

  • 設計方法:H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)
  • 照査方法
    • 擁壁の安定性の照査
      • 擁壁自体の安定性の照査
        • 常時の作用で照査:
        • 降雨の作用で照査:不要
        • レベル1地震動の$k_h$で照査:不要
        • レベル2地震動の$k_h$で照査:不要
      • 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性の検討:不要
    • 部材の安全性の照査:
    • 排水工、付帯工:適切に設計する

1-9. 照査のおける荷重の組み合わせ

照査は、「地震時」が不要であるため、「常時」のみ行うこととする。

下表のとおりの荷重の組み合わせとする。(H24道擁p51)

自重土圧浮力
上載荷重主働土圧水位
常時有り有り有り考慮有り
📌NOTE
  • 一般には、常時の作用に対しては「自重+載荷重+土圧」の組み合わせに加えて、「自重+土圧」の組み合わせについても設計を行うとされています。(H24道擁p51)
  • これは、載荷重を無視すると、照査項目によっては、危険側に推移することがあるからです。
  • ただ、この設計例では、エクセルで上載荷重を「10」から「0」にしても照査項目のすべてが許容値内になることが確認できます。
  • 本来は「自重+土圧」の組み合わせも照査の対象にするのが正しいのですが、エクセル上で簡単に確認でき、設計の支配的な要素でないため、省略しています。
📌NOTE
  • 水の影響である「浮力」と「水位」については、無視する場合と考慮する場合に分けて照査します。
  • これは、水の影響を無視すると「転倒に対する照査」と「支持に対する照査」が危険側になる一方、水の影響を考慮すると「滑動に対する照査」が危険側になるためです。
  • ただ、「水の影響を無視」する場合もエクセル上で水位を「0」にするだけで簡単に確認でき、設計の支配的な要素でないため、省略しています。

1-10. 照査における許容値

照査に用いる許容値は以下のとおりとする。(許容鉛直支持力度は「1-4. 支持地盤」より再掲)

常時地震時
転倒に対する安定条件(H24道擁p112,174,162)$\displaystyle d > \frac{B}{2}$
滑動に対する安全率(H24道擁p113,174,162)1.5
許容鉛直支持力度(H24道擁p68,69,174,163)300 kN/m²
許容変位(H24道擁p110)省略

2. 設計に用いる荷重

2-1. 自重

擁壁を区分し、面積と重心(0点からの水平方向距離)を求める。

2-1-1. 天端コンクリート

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= b\times h_b\\[5px] &= 1.100 \times 0.300\\[5px] &= 0.330 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= b_2 + \frac{b_1 + b}{2}\\[5px] &= 0.200+ \frac{0.120 +1.100}{2}\\[5px] &= 0.810 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.330 \times 23\\[5px] &= 7.590 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-2. ブロック(最上段)

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= b_3\times h_h\\[5px] &= 0.835 \times 0.500\\[5px] &= 0.418 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{b_2 + b_3}{2}\\[5px] &= \frac{0.200 +0.835}{2}\\[5px] &= 0.518 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.418 \times 23\\[5px] &= 9.603 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-3. 裏込めコンクリート(最上段)

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= b_4\times h_h\\[5px] &= 0.265 \times 0.500\\[5px] &= 0.133 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= b_3 + \frac{b_4 + b_2}{2}\\[5px] &= 0.835 + \frac{0.265 +0.200}{2}\\[5px] &= 1.068 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.133 \times 23\\[5px] &= 3.048 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-4. ブロック(最上段以外)

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= b_3\times h_r\\[5px] &= 0.835 \times 1.000\\[5px] &= 0.835 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{b_5 + b_3}{2}\\[5px] &= \frac{0.400 +0.835}{2}\\[5px] &= 0.618 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.835 \times 23\\[5px] &= 19.205 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-5. 裏込めコンクリート(最上段以外)

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= b_4\times h_r\\[5px] &= 0.265 \times 1.000\\[5px] &= 0.265 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= b_3 + \frac{b_4 + b_5}{2}\\[5px] &= 0.835 + \frac{0.265 +0.400}{2}\\[5px] &= 1.168 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.265 \times 23\\[5px] &= 6.095 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-6. 基礎コンクリート

面積
$$ \begin{equation} \begin{split} A &= B\times h_B\\[5px] &= 1.300 \times 0.300\\[5px] &= 0.390 \ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
重心位置
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{B}{2}\\[5px] &= \frac{1.300}{2}\\[5px] &= 0.650 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
自重
$$ \begin{equation} \begin{split} V &= A \times \gamma_c\\[5px] &= 0.390 \times 23\\[5px] &= 8.970 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-7. 自重の集計

各段の自重を集計する。

重心位置鉛直荷重モーメント
$x$$V$$x \cdot V$
(m)(kN/m)(kN/m・m)
最上段天端コンクリート0.8107.5906.148
ブロック0.5189.6034.969
裏込めコンクリート1.0683.0483.253
合計20.24014.370
最上段以外ブロック0.61819.20511.859
裏込めコンクリート1.1686.0957.116
合計25.30018.975
基礎部基礎コンクリート0.6508.9705.831

段ごとの重心の計算

最上段

$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{14.370}{20.240}\\[5px] &= 0.710 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
最上段以外
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{18.975}{25.300}\\[5px] &= 0.750 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
基礎部
$$ \begin{equation} \begin{split} x_G &= \frac{5.831}{8.970}\\[5px] &= 0.650 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-1-8. 各段の基準点と、基礎部基準点からの荷重の作用位置

擁壁基礎部の前面下端から基準点までの距離を算出する。
その距離に、基準点から各段の重心位置までの距離を加算し、作用位置を算出する。
図は、2段目の基準点、重心位置、作用位置を示している。

基準点重心位置作用位置
$x$基礎部最上段以外 最上段$x_S$
6段目2.1000.7102.810
5段目1.7000.7502.450
4段目1.3000.7502.050
3段目0.9000.7501.650
2段目0.5000.7501.250
1段目0.1000.7500.850
基礎部0.0000.6500.650

2-2. 土圧

主働土圧は、試行くさび法によって算出する。(H24道擁p100)

擁壁上の盛土が平坦な場合(嵩上げ盛土がない場合)は、主働土圧合力は下式で算出できる。(H24道擁p101)

$$ \begin{equation} \begin{split} P=\frac{W \cdot \sin(\omega - \phi)}{\cos(\omega - \phi - \alpha - \delta)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W = \frac{b_w \cdot h_w}{2}\cdot \gamma_s' + \frac{b_w+b_u}{2} \cdot (H-h_w)\cdot \gamma_s + q \cdot b_u \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} b_u= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan \alpha) \cdot H \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} b_w= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan \alpha) \cdot h_w \end{split}\nonumber \end{equation} $$
ここに、
  • $P$:主働土圧合力(kN/m)
  • $W$:土くさび重量(載荷重を含む)(kN/m)
  • $b_u$:土塊上の上載荷重の作用幅(m)
  • $b_w$:土塊の水位部の幅(m)
  • $\omega$:仮定したすべり面と水平面のなす角(° )
  • $\phi$:裏込め土のせん断抵抗角(° )
    • $\phi= 35$
  • $\alpha$:壁背面と鉛直面のなす角(鉛直面より左回り正)(° )
    • $\alpha= \tan^{-1}n=\tan^{-1}0.4=-21.8$
  • $\delta$:壁面摩擦角(° )
    • $\displaystyle \delta = \frac{2}{3}\cdot \phi = \frac{2}{3}\times 35 =23.3$(H24道擁p99)

すべり面の下端は、擁壁の背面勾配を延長し、基礎底面と交差する点とする。

📌NOTE
  • 壁背面と鉛直面のなす角$\alpha$は、「負」の値となります。
  • これは、H24道擁p101の図のとおり、重力式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されているからです。
  • ちなみに、後述の「3-4. 支持に対する照査」では、同じ角度である壁面傾斜角$\theta$の符号が逆になります。

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} P &=\frac{W \cdot \sin(\omega - \phi)}{\cos(\omega - \phi - \alpha - \delta)}\\[5px] &=\frac{W \cdot \sin(\omega - 35)}{\cos(\omega - 35 - - 21.8 - 23.3)}\\[5px] &= \frac{W \cdot \sin(\omega - 35)}{\cos(\omega - 36.5)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W &= \frac{b_w \cdot h_w}{2} \cdot \gamma_s' + \frac{b_w+b_u}{2} \cdot (H-h_w) \cdot \gamma_s + q \cdot b_u\\[5px] &= \frac{b_w \cdot 3.700}{2} \cdot 10 + \frac{b_w + b_u}{2} \cdot (6.100 - 3.700) \cdot 19 + 10 \cdot b_u\\[5px] &= 18.500 \cdot b_w + 22.800 \cdot b_w + 22.800 \cdot b_u + 10 \cdot b_u\\[5px] &= 32.800 \cdot b_u + 41.300 \cdot b_w \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} b_u &= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan \alpha) \cdot H \\[5px] &= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan -21.8)\cdot 6.100\\[5px] &= (\frac{1}{\tan\omega} - 0.400)\cdot 6.100\\[5px] &= \frac{6.100}{\tan\omega}-2.440 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} b_w &= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan \alpha) \cdot h_w \\[5px] &= (\frac{1}{\tan\omega} + \tan -21.8)\cdot 3.700\\[5px] &= (\frac{1}{\tan\omega} - 0.400)\cdot 3.700\\[5px] &= \frac{3.700}{\tan\omega}-1.480 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

すべり角$\omega$を変化させて、主働土圧合力$P$の最大値を求める。

上の式を用いて、表計算すると下記のとおりとなる。

すべり角
$\omega$
(° )
上載幅
$b_u$
(m)
水位幅
$b_w$
(m)
土くさび重量
$W$
(kN/m)
主働土圧合力
$P$
(kN/m)
48 3.052 1.851 176.588 40.533
49 2.863 1.736 165.607 41.031
50 2.679 1.625 154.954 41.239
51 2.500 1.516 144.609 41.165
52 2.326 1.411 134.552 40.817

よって、土圧合力が最大となるすべり角は

$$ \begin{equation} \begin{split} \omega = 50 \ \mathrm{° } \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の主働土圧合力は

$$ \begin{equation} \begin{split} P_A=41.239 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_H &= P_A \cdot \cos(\alpha + \delta)\\[5px] &= 41.239 \times \cos(-21.8 + 23.3)\\[5px] &= 41.224\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
鉛直成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_V &= P_A \cdot \sin(\alpha + \delta)\\[5px] &= 41.239 \times \sin(-21.8 + 23.3)\\[5px] &= 1.103\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
作用位置
$$ \begin{equation} \begin{split} y_A &= \frac{H}{3} \\[5px] &= \frac{6.100}{3}\\[5px] &= 2.033\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} x_A &= B - h_B \times n - B_b + y_A \times n\\[5px] &= 1.300 - 0.300 \times 0.4 - 0.100 + 2.033 \times 0.4\\[5px] &= 1.893\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-3. 浮力

2-3-1. 各段の浮力作用高の計算

各段のブロックと基礎部に作用する浮力作用高を算出する。

各段の高さ下端高さ水位浮力作用高
$b$$h_u$$h_w$$h_f$
(m)(m)(m)(m)
6段目0.8005.3003.700
5段目1.0004.300
4段目1.0003.3000.400
3段目1.0002.3001.000
2段目1.0001.3001.000
1段目1.0000.3001.000
基礎部0.3000.0000.300

2-3-2. 各段の浮力の計算

浮力作用高より、各段のブロックと基礎部に作用する浮力を算出する。

浮力作用高各段の下幅面積単位体積重量浮力
$h_f$$b$$A=h_f \cdot b$$\gamma_w$$A \cdot \gamma_w$
(m)(m)(m²)(kN/m³)(kN/m)
6段目
5段目
4段目0.4001.1000.4409.8-4.312
3段目1.0001.1001.1009.8-10.780
2段目1.0001.1001.1009.8-10.780
1段目1.0001.1001.1009.8-10.780
基礎部0.3001.3000.3909.8-3.822

2-3-3. 各段に作用する浮力の重心の計算

各段に作用する浮力の重心を算出する。

浮力作用高勾配各段の下幅全体幅重心位置
$h_f$$n$$b$$B=h_f \cdot n + b$$x_G=B/2$
(m)(m)(m)(m)
6段目
5段目
4段目0.4000.41.1001.2600.630
3段目1.0000.41.1001.5000.750
2段目1.0000.41.1001.5000.750
1段目1.0000.41.1001.5000.750
基礎部0.3001.3001.3000.650

2-3-4. 基礎部前面から各段の浮力の作用位置

基礎部前面から各段に作用する浮力の重心までの距離「浮力の作用位置」を算出する。

基準点重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s=x+x_G$
(m)(m)(m)
6段目
5段目
4段目1.3000.6301.930
3段目0.9000.7501.650
2段目0.5000.7501.250
1段目0.1000.7500.850
基礎部0.0000.6500.650

3. 擁壁の安定性の照査

擁壁自体の安定性を照査する。

3-1. 作用力の集計

照査にあたり、作用力を集計する。

自重、浮力、土圧について、上記のとおり鉛直力と水平力をそれぞれ算出しましたので、作用位置までの距離を乗じて、モーメントを算出する。

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.81056.874
5段目25.3002.45061.985
4段目25.3002.05051.865
3段目25.3001.65041.745
2段目25.3001.25031.625
1段目25.3000.85021.505
基礎部8.9700.6505.831
土圧1.10341.2241.8932.0332.08983.822
浮力6段目
5段目
4段目-4.3121.930-8.322
3段目-10.7801.650-17.787
2段目-10.7801.250-13.475
1段目-10.7800.850-9.163
基礎部-3.8220.650-2.484
合計116.33941.224222.28883.822

3-2. 転倒に対する照査

まず、「作用力の合力位置$d$」を求める。
作用力の合力位置は、底面つま先から合力の作用点までの水平距離であり、次のとおり求められる。(H24道擁p117)
$$ \begin{equation} \begin{split} d &= \frac{\Sigma M_x - \Sigma M_y}{\Sigma V} \\[5px] &= \frac{222.288 - 83.822}{116.339}\\[5px] &= 1.190\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
「1. 設計条件」で定めた「転倒に対する安定条件」のとおり、安定に必要な合力位置は擁壁底面の中央より後方であるため、許容最小距離は次のとおり求められる。
$$ \begin{equation} \begin{split} \frac{B}{2} &= \frac{1.300}{2} \\[5px] &= 0.650\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

以上より、作用力の合力位置$d=1.190$、許容最小距離$0.650$なので、

$$ \begin{equation} \begin{split} d=1.190 > \frac{B}{2}=0.650 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、転倒に対しては安全である。

3-3. 滑動に対する照査

下式のとおり、滑動に対する抵抗力を滑動力で除して、安全率を算出する。(H24道擁p113)

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s &= \frac{\Sigma V \cdot \mu + c_B \cdot B'}{\Sigma H} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

このうち、付着力$c_B=0$であるため、下式のとおり、安全率を算出する。

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s &= \frac{\Sigma V \cdot \mu}{\Sigma H} \\[5px] &= \frac{116.339 \times 0.600}{41.224}\\[5px] &= 1.693 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、滑動に対する安全率$F_{sa}=1.5$である。

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s=1.693 \geqq F_{sa}=1.5 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、滑動に対しては安全である。

3-4. 支持に対する照査

作用力の合力位置が擁壁底面幅の1/2より後方にある($d \geqq B/2$)ため、簡便法で計算する(H24道擁p164)

$$ \begin{equation} \begin{split} Q_t = \frac{M_a - \kappa_d \cdot B \cdot \Sigma V}{B \cdot \sin \theta (1- \kappa_d) + ℓ(1 - \kappa_ℓ /3)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} Q_V = \Sigma V - Q_t \cdot \sin \theta \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} Q_H = \Sigma H + Q_t \cdot \cos \theta \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_{v1} = \frac{2 \cdot Q_V(2-3 \cdot \kappa_d)}{B} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_{v2} = \frac{2 \cdot Q_V(3 \cdot \kappa_d -1)}{B} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_t = \frac{2 \cdot Q_t}{\kappa_ℓ \cdot ℓ} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $M_a$:擁壁底面のつま先回りの作用モーメント(kN・m/m)
    $$ \begin{equation} \begin{split} M_a = \Sigma M_x - \Sigma M_y = 222.288 - 83.822 =138.465 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
  • $ℓ$:壁面長(m)
    $$ \begin{equation} \begin{split} ℓ = H \times \sqrt{1+n_r^2} = 6.100 \times \sqrt{1+0.400^2}=6.570 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
  • $\theta$:壁面傾斜角(壁面より左回り正)
    • $\theta = \tan^{-1} n_r = \tan^{-1} 0.4 = 21.8 \ \mathrm{°}$
  • $Q_V$:擁壁底面に発生する鉛直地盤反力(kN/m)
  • $Q_H$:擁壁底面に発生する水平地盤反力(kN/m)
  • $Q_t$:擁壁背面に発生する壁面地盤反力(kN/m)
    • ただし、$d \leqq \kappa_d \cdot B$のとき、$Q_t = 0$
  • $q_{v1}$:擁壁底面の前方に発生する鉛直地盤反力度(kN/m²)
  • $q_{v2}$:擁壁底面の後方に発生する鉛直地盤反力度(kN/m²)
  • $q_t$:擁壁背面に発生する最大壁面地盤反力度(kN/m²)
  • $d_p$:擁壁底面のつま先からの鉛直地盤反力の作用位置(m)
  • $ℓ_1$:擁壁底面から壁面地盤反力度が発生する位置までの区間長(m)
  • $ℓ_2$:壁面地盤反力度が発生する区間長(m)
  • $\kappa_ℓ$:壁面地盤反力度が発生する区間長ℓ₂と擁壁壁面長ℓとの比(下表による)
    • $\kappa_ℓ=0.60$
  • $\kappa_d$:壁面底面のつま先からの鉛直地盤反力度の作用位置$d_p$と擁壁底面幅$B$との比
    • $\kappa_d = 0.56$
背面勾配 1:0.3 1:0.4 1:0.5
$\kappa_ℓ=ℓ₂/ℓ$ 0.50 0.60 0.70
📌NOTE
  • 壁面傾斜角$\theta$の符号は「正」になります。
  • ところが、前述「2-2. 土圧」のとおり、土圧の計算では、同じ角である$\alpha$は、「負」の値です。
  • これは、H24道擁p164のとおり壁面傾斜角$\theta$がもたれ式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されている一方、土圧の計算ではH24道擁p101の図のとおり、重力式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されているからです。

「3-2. 転倒に対する照査」より、

$$ \begin{equation} \begin{split} d=1.190 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

また、

$$ \begin{equation} \begin{split} \kappa_d \cdot B &= 0.56 \times 1.300 \\[5px] &=0.728 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
よって、$d > \kappa_d \cdot B$なので、
$$ \begin{equation} \begin{split} Q_t &= \frac{M_a - \kappa_d \cdot B \cdot \Sigma V}{B \cdot \sin \theta (1- \kappa_d) + ℓ(1 - \kappa_ℓ /3)} \\[5px] &= \frac{138.465 - 0.56 \cdot 1.300 \cdot 116.339}{1.300 \cdot \sin 21.8 (1- 0.56) + 6.570(1 - 0.60 /3)} \\[5px] &= \frac{138.465 - 84.695}{1.300 \times 0.371 \times 0.44 + 6.570 \times 0.80} \\[5px] &= \frac{53.770}{5.468} \\[5px] &= 9.833 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} Q_V &= \Sigma V - Q_t \sin \theta \\[5px] &= 116.339 - 9.833 \cdot \sin 21.8\\[5px] &= 112.688 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} Q_H &= \Sigma H + Q_t \cos \theta \\[5px] &= 41.224 + 9.833 \cdot \cos 21.8\\[5px] &= 50.354 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} ℓ_2 &= \kappa_ℓ \cdot ℓ \\[5px] &= 0.60 \times 6.570\\[5px] &= 3.942 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} ℓ_1 &= ℓ - ℓ_2 \\[5px] &= 6.570 - 3.942\\[5px] &= 2.628 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_t &= \frac{2 \cdot Q_t}{\kappa_ℓ \cdot ℓ} \\[5px] &= \frac{2 \times 9.833}{0.60 \times 6.570}\\[5px] &= \frac{19.666}{3.942}\\[5px] &= 4.989 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_{v1} &= \frac{2 \cdot Q_V(2-3 \cdot \kappa_d)}{B} \\[5px] &= \frac{2 \times 112.688(2-3 \times 0.56)}{1.300} \\[5px] &= \frac{72.120}{1.300} \\[5px] &= 55.477 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_{v2} &= \frac{2 \cdot Q_V(3 \cdot \kappa_d -1)}{B} \\[5px] &= \frac{2 \times 112.688(3 \times 0.56 -1)}{1.300} \\[5px] &= \frac{153.255}{1.300} \\[5px] &= 117.889 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、許容鉛直支持力度$q_a=300$である。

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} q_{v1}=55.477 \leqq q_a=300 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}}\\[5px] q_{v2}=117.889 \leqq q_a=300 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、支持に対しては安全である。

4. 部材の安全性の照査

4-1. 荷重の計算

4-1-1. 自重

「2-1. 自重」で算出した値とする。

4-1-2. 土圧

最大の主導土圧合力$P_A$より、主働土圧係数$K_A$を逆算する。(H24道擁p101)

「2-2. 土圧」より、

$$ \begin{equation} \begin{split} P_A = 41.239 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} K_A &= \frac{2 \cdot P_A}{\gamma_s \cdot H^2}\\[5px] &= \frac{2 \times 41.239}{19 \times 6.100^2}\\[5px] &= 0.117 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

任意位置に作用する土圧強度$p_{ai}$は、土圧強度の定義より下式で算出できる。

$$ \begin{equation} \begin{split} p_{ai} &= K_A \cdot \gamma_s \cdot h_i\\[5px] &= 0.117 \times 19 \times h_i\\[5px] &= 2.217 h_i \end{split}\nonumber \end{equation} $$

任意の位置の土圧合力$P_{ai}$は、下式で算出できる。

$$ \begin{equation} \begin{split} P_{ai} = \frac{p_{ai} \cdot h_i}{2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{iH} &= P_{ai} \cdot \cos(\alpha + \delta)\\[5px] &= P_{ai} \times \cos(-21.8 + 23.3)\\[5px] &= 1.000 P_{ai} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
鉛直成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{iV} &= P_{ai} \cdot \sin(\alpha + \delta)\\[5px] &= P_{ai} \times \sin(-21.8 + 23.3)\\[5px] &= 0.027 P_{ai} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
作用位置
$$ \begin{equation} \begin{split} y_{ai} = \frac{h_i}{3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} x_{ai} &= b + y_{ai} \times n\\[5px] &= 1.100 + y_{ai} \times 0.4\\[5px] &= 1.100 + 0.4 y_{ai} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

高さを変化させて、それぞれの作用位置とモーメントを表計算で求める。

高さ土圧強度土圧合力鉛直力水平力作用位置(アーム長)
$h_i$$p_{ai}$$P_{ai}$$P_{iV}$$P_{iH}$$x_{ai}$$y_{ai}$
(m)(kN/m²)(kN/m)(kN/m)(kN/m)(m)(m)
6段目0.8001.7730.7090.0190.7091.2070.267
5段目1.8003.9903.5910.0963.5901.3400.600
4段目2.8006.2068.6890.2338.6861.4730.933
3段目3.8008.42316.0030.42815.9981.6071.267
2段目4.80010.63925.5350.68325.5251.7401.600
1段目5.80012.85637.2820.99837.2691.8731.933

4-1-3. 浮力

「2-3. 浮力」で算出した値とする。

4-1-4. 壁面地盤反力

前述の「3-4.支持に対する照査」と同様、簡便法で計算する。(H24道擁p164)

「3-4.支持に対する照査」より、
  • $ℓ = 6.570 \ \mathrm{m}$
  • $\kappa_ℓ = 0.60$
  • $ℓ_2 = 3.942 \ \mathrm{m}$
  • $Q_t = 9.833 \ \mathrm{kN/m}$
  • $q_t = 4.989 \ \mathrm{kN/m^2}$
  • $\theta = 21.8 \ \mathrm{°}$
壁面地盤反力度が作用する背面の延長$z_i'$は下式で算出できる。
$$ \begin{equation} \begin{split} z_i' &= \frac{z_i}{\cos \theta}\\[5px] &= \frac{z_i}{\cos 21.8}\\[5px] &= 1.077 z_i \end{split}\nonumber \end{equation} $$

照査断面位置の壁面地盤反力度$q_t’$は、三角形の相似より下式で算出できる。

$$ \begin{equation} \begin{split} q_t' &= \frac{\kappa_ℓ \cdot ℓ - z_i'}{\kappa_ℓ \cdot ℓ} q_t \\[5px] &= \frac{0.60 \times 6.570 - z_i'}{0.60 \times 6.570} \times 4.989\\[5px] &= 4.989 - 1.266 z_i' \end{split}\nonumber \end{equation} $$

壁面地盤反力の合力$Q_{tzi}$は台形の面積なので、下式で算出できる。

$$ \begin{equation} \begin{split} Q_{tzi} &= \frac{(q_t + q_t') \times z_i'}{2}\\[5px] &= \frac{(4.989 + 4.989 -1.266 z_i') \times z_i'}{2}\\[5px] &= 4.989 z_i' - 0.633 z_i'^2 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分

$$ \begin{equation} \begin{split} Q_{iH} &= Q_{tzi} \cos \theta\\[5px] &= Q_{tzi} \cos 21.8\\[5px] &= 0.928 \cdot Q_{tzi} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

鉛直成分

$$ \begin{equation} \begin{split} Q_{iV} &= -Q_{tzi} \sin \theta\\[5px] &= -Q_{tzi} \sin 21.8\\[5px] &= -0.371 \cdot Q_{tzi} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

作用位置

$$ \begin{equation} \begin{split} x_{zi} &= b + y_{zi} \times n\\[5px] &= 1.100 + y_{zi} \times 0.4\\[5px] &= 1.100+ 0.4 y_{zi} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
①$z_i < ℓ_2$の場合
$$ \begin{equation} \begin{split} y_{zi} &= \frac{2 \cdot q_t + q_t'}{3(q_t + q_t')}z_i' \times \cos \theta\\[5px] &= \frac{2 \cdot 4.989 + 4.989 - 1.266z_i'}{3(4.989 + 4.989 - 1.266 z_i')}z_i' \times \cos 21.8\\[5px] &= \frac{14.967 - 1.266 z_i'}{29.934 - 3.797 z_i'}z_i' \times 0.928\\[5px] &= \frac{13.896 - 1.175 z_i'}{29.934 - 3.797 z_i'}z_i' \end{split}\nonumber \end{equation} $$
②$z_i = ℓ_2$の場合
$$ \begin{equation} \begin{split} y_{zi} &= h_i - \frac{1}{3}z_i' \times \cos \theta\\[5px] &= h_i - \frac{1}{3}z_i' \times \cos 21.8\\[5px] &= h_i - \frac{1}{3}z_i' \times 0.928\\[5px] &= h_i - 0.309 z_i' \end{split}\nonumber \end{equation} $$

高さを変化させて、それぞれの作用位置とモーメントを表計算で求める。

高さ$z_i' < ℓ_2$鉛直力水平力作用位置(アーム長)
$h_i$$z_i$$z_i'$or$Q_{tzi}$$Q_{iV}$$Q_{iH}$$x_{zi}$$y_{zi}$
(m)(m)(m)$z_i'=ℓ_2$(kN/m)(kN/m)(kN/m)(m)(m)
6段目0.8000.8000.862$z_i' < ℓ_2$3.829-1.4223.5551.2670.416
5段目1.8001.9391.939$z_i' < ℓ_2$7.293-2.7096.7721.4990.998
4段目2.8002.8003.016$z_i' < ℓ_2$9.290-3.4508.6261.7761.689
3段目3.8003.6603.942$z_i' = ℓ_2$9.833-3.6529.1302.1322.580
2段目4.8003.6603.942$z_i' = ℓ_2$9.833-3.6529.1302.5323.580
1段目5.8003.6603.942$z_i' = ℓ_2$9.833-3.6529.1302.9324.580

4-2. 荷重の集計

作用位置と荷重を各段で集計する。

4-2-1. 6段目

作用位置は、基準点に重心位置を加算して算出する。

基準点の位置は、各段のブロック前面下部とする。

重心位置は、「2-1-7. 自重の集計」で求めた値とする。

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目0.0000.7100.710

荷重は、自重、土圧、地盤反力の3つについて集計する。

それぞれの鉛直力に、作用位置を乗じて、モーメントを算出する。

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2400.71014.370
土圧0.0190.7091.2070.2670.0230.189
浮力6段目
地盤反力-1.4223.5551.2670.416-1.8011.480
合計18.8374.26412.5921.669

4-2-2. 5段目

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目0.4000.7101.110
5段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.11022.466
5段目25.3000.75018.975
土圧0.0963.5901.3400.6000.1292.154
浮力6段目
5段目
地盤反力-2.7096.7721.4990.998-4.0606.757
合計42.92810.36137.5108.911

4-2-3. 4段目

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目0.8000.7101.510
5段目0.4000.7501.150
4段目0.0000.7500.7500.6300.630

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.51030.562
5段目25.3001.15029.095
4段目25.3000.75018.975
土圧0.2338.6861.4730.9330.3438.107
浮力6段目
5段目
4段目-4.3120.630-2.717
地盤反力-3.4508.6261.7761.689-6.12614.570
合計63.31017.31170.13222.676

4-2-4. 3段目

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目1.2000.7101.910
5段目0.8000.7501.550
4段目0.4000.7501.1500.6301.030
3段目0.0000.7500.7500.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.91038.658
5段目25.3001.55039.215
4段目25.3001.15029.095
3段目25.3000.75018.975
土圧0.42815.9981.6071.2670.68820.264
浮力6段目
5段目
4段目-4.3121.030-4.441
3段目-10.7800.750-8.085
地盤反力-3.6529.1302.1322.580-7.78523.555
合計77.82525.128106.32043.819

4-2-5. 2段目

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目1.6000.7102.310
5段目1.2000.7501.950
4段目0.8000.7501.5500.6301.430
3段目0.4000.7501.1500.7501.150
2段目0.0000.7500.7500.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.31046.754
5段目25.3001.95049.335
4段目25.3001.55039.215
3段目25.3001.15029.095
2段目25.3000.75018.975
土圧0.68325.5251.7401.6001.18940.841
浮力6段目
5段目
4段目-4.3121.430-6.166
3段目-10.7801.150-12.397
2段目-10.7800.750-8.085
地盤反力-3.6529.1302.5323.580-9.24632.685
合計92.60034.655148.66973.525

4-2-6. 1段目

作用位置
基準点自重浮力
重心位置作用位置重心位置作用位置
$x$$x_G$$x_s$$x_G'$$x_s'$
(m)(m)(m)(m)(m)
6段目2.0000.7102.710
5段目1.6000.7502.350
4段目1.2000.7501.9500.6301.830
3段目0.8000.7501.5500.7501.550
2段目0.4000.7501.1500.7501.150
1段目0.0000.7500.7500.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.71054.850
5段目25.3002.35059.455
4段目25.3001.95049.335
3段目25.3001.55039.215
2段目25.3001.15029.095
1段目25.3000.75018.975
土圧0.99837.2691.8731.9331.86972.053
浮力6段目
5段目
4段目-4.3121.830-7.891
3段目-10.7801.550-16.709
2段目-10.7801.150-12.397
1段目-10.7800.750-8.085
地盤反力-3.6529.1302.9324.580-10.70741.814
合計107.43446.399197.006113.868

4-3. 応力度算出と判定

コンクリート断面の図心軸から軸方向力の作用点までの距離(偏心距離$e$)は下式で算出できる。
$$ \begin{equation} \begin{split} e = \frac{b}{2}-\frac{\Sigma M_x - \Sigma M_y}{\Sigma V} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
底面幅鉛直力水平力0点のモーメント偏心距離
$b$$\Sigma V$$\Sigma H$$\Sigma M_x$$\Sigma M_y$e
(m)(kN/m)(kN/m)(kN・m/m)(kN・m/m)(m)
6段目1.10018.8374.26412.5921.669-0.030
5段目1.10042.92810.36137.5108.911-0.116
4段目1.10063.31017.31170.13222.676-0.200
3段目1.10077.82525.128106.32043.819-0.253
2段目1.10092.60034.655148.66973.525-0.261
1段目1.100107.43446.399197.006113.868-0.224

無筋コンクリート部材断面に生じる圧縮(曲げ引張)応力度は下式で算出できる。(H24道擁143)

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma_c = \frac{N}{A} \pm \frac{N \cdot e}{W} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
ここに、
  • $\sigma_c$:コンクリート断面の縁応力度
  • $N$:軸方向力
    • $N= \Sigma V \times 1.000$
  • $A$:コンクリート全断面積(延長方向は1.0mとする。)
    $$ \begin{equation} \begin{split} A= b \times 1.000 = 1.100 \times 1.000 = 1.100\ \mathrm{m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
  • $e$:偏心距離
  • $W$:コンクリートの図心軸に関する断面係数
    $$ \begin{equation} \begin{split} \displaystyle W= \frac{1.000 \cdot b^2}{6}= \frac{1.000 \times 1.100^2}{6}=0.202\ \mathrm{m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、縁応力度(圧縮:正、曲げ引張:負)を判定すると、下表のとおり。

軸方向力偏心距離縁応力度縁応力度判定
$N$$e$$\sigma_{c1}$$\sigma_{c2}$$\sigma_{c1}$$\sigma_{c2}$圧縮曲げ引張
(kN)(m)(kN/m²)(kN/m²)(N/mm²)(N/mm²)≦4.50≧-0.23
6段目18.837-0.03019.91514.3340.0200.014OKOK
5段目42.928-0.11663.76214.2880.0640.014OKOK
4段目63.310-0.200120.210-5.1000.120-0.005OKOK
3段目77.825-0.253168.424-26.9250.168-0.027OKOK
2段目92.600-0.261204.251-35.8880.204-0.036OKOK
1段目107.434-0.224216.920-21.5850.217-0.022OKOK

無筋コンクリート部材断面に生じる平均せん断応力度は下式で算出できる。(H24道擁145)

$$ \begin{equation} \begin{split} \tau_m &= \frac{S}{b \cdot d} \\[5px] &= \frac{S}{1.100 \times 1.000} \\[5px] &= \frac{S}{1.100} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
ここに、
  • $\tau_m$:部材断面に生じるコンクリートの平均せん断応力度
  • $S$:部材のせん断力
    • $S= \Sigma H \times 1.000$

よって、せん断応力度を判定すると、下表のとおり。

せん断力せん断応力度せん断応力度判定
$S$$\tau_m$$\tau_m$$\tau_a$
(kN)(kN/m²)(N/mm²)≦0.33
6段目4.2643.8760.004OK
5段目10.3619.4190.009OK
4段目17.31115.7380.016OK
3段目25.12822.8430.023OK
2段目34.65531.5050.032OK
1段目46.39942.1810.042OK
📌NOTE
  • この設計計算では、どの許容値も余裕をもって満足する結果になっています。
  • 市場に流通している大型ブロックには空隙があり、この設計計算で設定した擁壁の寸法で計算すると「滑動に対する照査」で危険側に推移します。
  • このため、余裕をもたせた設計にして、擁壁の寸法が実務と差異が小さくなるようにしています。

エクセルブック

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