この記事では、道路に設置される「大型ブロック積擁壁」をエクセルで設計計算した結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

これから解説する内容は、社団法人日本道路協会が平成24年7月に発行した道路土工擁壁工指針(以下、H24道擁という。)に基づいている。

今回の紹介する設計プロセスは「擁壁上の嵩上げ盛土なし、砂質地盤、地下水なし、擁壁高さ8m以下」が適用範囲である。(H24道擁p27, 89)

下記の画像は、設計のフローチャートである。

1. 設計条件

1-1. 形状寸法

  • 全高:H=6.100 m
  • 直高:H=5.800 m
  • 天端幅:b=1.100 m
  • 天端厚:hb=0.300 m
  • 基礎幅:B=1.300 m
  • 基礎厚:hB=0.300 m
  • 基礎前面天端幅:Bf=0.100 m
  • 基礎後面天端幅:Bb=0.100 m
  • 勾配:n=0.4
  • 擁壁1ブロックの延長:L=10 m
📌NOTE
  • もたれ式擁壁に準拠した大型ブロック積擁壁の勾配は、直高により決定します。(H25道擁p161,175)
  • H24道擁の記載は、目安とされていますが、大きな問題がない限りはH24道擁に従うべきでしょう。

1-2. コンクリート規格

  • 設計基準強度:σck=18 N/mm2
  • 単位体積重量:γc=23 kN/m3(H24道擁p52)
  • 無筋コンクリートの許容圧縮応力度:σck/4=4.50 N/mm2(H24道擁p81)
  • 無筋コンクリートの許容曲げ引張応力度:σck/80=0.23 N/mm2(H24道擁p83,143)
  • 無筋コンクリートの許容せん断応力度:σck/100+0.15=0.33 N/mm2(H24道擁p83,144)

1-3. 裏込め材料

  • 裏込め土:礫質土
  • せん断抵抗角:ϕ=35 °(H24道擁p66)
  • 単位体積重量:γs=19 kN/m3(H24道擁p66)
  • 粘着力:c=0 kN/m2(H24道擁p66)

1-4. 支持地盤

  • 土質:砂質地盤(密なもの)
  • 底面と地盤の摩擦係数:μ=0.6(H24道擁p70)
  • 付着力:cB=0 kN/m2(H24道擁p70)
  • 許容鉛直支持力度(常時):qa=300 kN/m2(H24道擁p68,69)
  • 中間層に軟弱な土層あるいは液状化が懸念されるゆるい砂質土層:なし

1-5. 上載荷重と地下水位

  • 上載荷重:q=10 kN/m2(H24道擁p53)
  • 地下水位:なし
📌NOTE
  • ブロック積擁壁には、直接輪荷重がかからないよう規定している団体があります。
  • 近畿地方整備局のWebサイトで公開されている「設計便覧(案)ー第3編道路編ー第3章擁壁ー第2節 設計計画(参考)」には、上記の規定が図で示されていますが、大型ブロック積適用の留意事項も記載されています。
  • 今回の設計例では、留意事項のとおり、もたれ式擁壁に準拠した大型ブロック積擁壁であるため、直接輪荷重がかけられる擁壁として設計します。

1-6. 使用材料(大型ブロック)

  • 水平幅:0.835 m
  • 高さ
    • 最上段:0.500 m
    • 最上段以外:1.000 m
  • 段数(最上段除く):5段
  • 裏込めコンクリート厚:0.265 m
📌NOTE
  • もたれ式擁壁に準じた構造の大型ブロック積擁壁では、背面勾配と直高に応じて最小控長を定めるのがよいとされています。(H24道擁p174,175)
  • 上記の使用材料の場合、最小控長は0.12H=0.12×5.8=0.696 mとなります。
  • 一方、使用材料の控長は0.835/1+n2=0.835/1+0.42=0.775となります。
  • メーカーによっては、この最小控長以下の寸法で設計される場合もありますので、擁壁自体の安定性の照査と、部材の安全性の照査で、それぞれ問題がないか確認すべきでしょう。

1-7. 重要度区分と要求性能

擁壁は、その重要度に応じて設計照査の方法(耐震設計の基本方針)を区分している。(H24道擁p42)

  • 重要度1:万が一損傷すると交通機能に著しい影響を与える場合、あるいは隣接する施設に重大な影響を与える場合
  • 重要度2:重要度1に該当するもの以外

この設計計算例では、「重要度2」とする。

擁壁の要求性能とは、「擁壁の壊れにくさ」を定義しており、例えば「性能1」であれば、大震災後でも、健全性が保たれ道路を通行することができるほど壊れにくいということである。

要求性能は、3段階に区分されている。

  • 性能1:擁壁としての健全性を損なわない
  • 性能2:損傷が限定的なものにとどまり、擁壁としての機能の回復が速やかに行い得る
  • 性能3:損傷が擁壁として致命的とならない

この設計計算例では、重要度より要求性能を下記のとおり決定する。(H24道擁p44)

  • 常時の作用:性能1
  • 降雨の作用:性能1
  • レベル1地震動の作用:性能2
  • レベル2地震動の作用:性能3
📌NOTE
  • 公益社団法人日本道路協会のWebサイトに「道路土工構造物技術基準・同解説(平成29年3月)」出版後の道路土工指針等の取扱いについて記載されています。
  • 同文書の3ページ目には、擁壁工に関する読み替えの例が記載されています。
  • 内容は、「擁壁の要求性能」、「擁壁の限界状態」について読み替えの例となっています。

1-8. 設計方法と照査方法

設計方法は、「H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)」とする。

照査は、「擁壁の安定性」、「部材の安全性」、「排水工、付帯工」の3つに分けて行う。(H24道擁p88)

1-8-1. 擁壁の安定性

「擁壁の安定性」は、さらに「擁壁自体の安定性」、「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安全性」に分けられる。

1-8-1-1. 擁壁自体の安定性の照査

「擁壁自体の安定性」について、H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、所要の性能を確保するとされており、例えば「常時の作用に対して性能1」を満足するとみなしてよいとされている。(H24道擁p88)

また、擁壁高H8mの場合、「常時の作用で照査」すれば、「レベル1地震動の作用に対して性能2」、「レベル2地震動の作用に対して性能3」を満足するとされている。(H24道擁p89)

よって、今回は「擁壁高H8m」かつ、「重要度2」であるため、「レベル1地震動の作用」と「レベル2地震動の作用」に対する安定性照査は不要となる。

さらに、今回は「地下水位がないこと」、および「排水工を適切に設置すること」を前提とし、「水圧の影響を考慮しない」こととする。(H24道擁p55)

このため、「降雨の作用」については、通常、常時の作用における荷重の一項目として扱うが、今回はその荷重がないため、降雨に作用に対する照査を省略する。(H24道擁p49,88)

1-8-1-2. 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性

「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性」については、「1-4.支持地盤」に示したとおり、検討を要する層がないため、検討は不要となる。(H24道擁p111)

1-8-2. 部材の安全性

部材の安全性についても、擁壁の安定性と同様に、H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、所要の性能を確保するとされている。

擁壁を構成する部材の定義は、「躯体、底版及び杭等」とされている。(H24道擁p142)

もたれ擁壁に準じた大型ブロック積擁壁の場合、部材の安全性照査は躯体のみであり、各段のブロック下部を照査断面位置とし、それを固定端とする片持ばりとして設計・照査する。(H24道擁p166,170)

1-8-3. 排水工、付帯工

排水工は、上述の降雨による照査が不要となるようH24道擁p203の「5-9 排水工」に従い適切に設計するとこととする。

付帯工は、H24道擁p212の「5-10 付帯工」に従い設計することとする。

1-8-4. まとめ

まとめると、今回の設計例での設計方法と必要な照査は以下のとおり。

  • 設計方法:H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)
  • 照査方法
    • 擁壁の安定性の照査
      • 擁壁自体の安定性の照査
        • 常時の作用で照査:
        • 降雨の作用で照査:不要
        • レベル1地震動のkhで照査:不要
        • レベル2地震動のkhで照査:不要
      • 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性の検討:不要
    • 部材の安全性の照査:
    • 排水工、付帯工:適切に設計する

1-9. 照査のおける荷重の組み合わせ

照査は、「地震時」が不要であるため、「常時」のみ行うこととする。

下表のとおりの荷重の組み合わせとする。(H24道擁p51)

自重 上載荷重 土圧
常時 有り 有り 有り
地震時
📌NOTE
  • 一般には、常時の作用に対しては「自重+載荷重+土圧」の組み合わせに加えて、「自重+土圧」の組み合わせについても設計を行うとされています。(H24道擁p51)
  • これは、載荷重を無視すると、照査項目によっては、危険側に推移することがあるからです。
  • ただ、この設計例では、エクセルで上載荷重を「10」から「0」にしても照査項目のすべてが許容値内になることが確認できます。
  • 本来は「自重+土圧」の組み合わせも照査の対象にするのが正しいのですが、エクセル上で簡単に確認できるため、省略しています。

1-10. 照査における許容値

照査に用いる許容値は以下のとおりとする。(許容鉛直支持力度は「1-4. 支持地盤」より再掲)

常時地震時
転倒に対する安定条件(H24道擁p112,174,162)d>B2
滑動に対する安全率(H24道擁p113,174,162)1.5
許容鉛直支持力度(H24道擁p68,69,174,163)300 kN/m²
許容変位(H24道擁p110)省略

2. 設計に用いる荷重

2-1. 自重

擁壁を区分し、面積と重心(0点からの水平方向距離)を求める。

2-1-1. 天端コンクリート

面積
A=b×hb=1.100×0.300=0.330 m2
重心位置
xG=b2+b1+b2=0.200+0.120+1.1002=0.810 m
自重
V=A×γc=0.330×23=7.590 kN/m

2-1-2. ブロック(最上段)

面積
A=b3×hh=0.835×0.500=0.418 m2
重心位置
xG=b2+b32=0.200+0.8352=0.518 m
自重
V=A×γc=0.418×23=9.603 kN/m

2-1-3. 裏込めコンクリート(最上段)

面積
A=b4×hh=0.265×0.500=0.133 m2
重心位置
xG=b3+b4+b22=0.835+0.265+0.2002=1.068 m
自重
V=A×γc=0.133×23=3.048 kN/m

2-1-4. ブロック(最上段以外)

面積
A=b3×hr=0.835×1.000=0.835 m2
重心位置
xG=b5+b32=0.400+0.8352=0.618 m
自重
V=A×γc=0.835×23=19.205 kN/m

2-1-5. 裏込めコンクリート(最上段以外)

面積
A=b4×hr=0.265×1.000=0.265 m2
重心位置
xG=b3+b4+b52=0.835+0.265+0.4002=1.168 m
自重
V=A×γc=0.265×23=6.095 kN/m

2-1-6. 基礎コンクリート

面積
A=B×hB=1.300×0.300=0.390 m2
重心位置
xG=B2=1.3002=0.650 m
自重
V=A×γc=0.390×23=8.970 kN/m

2-1-7. 自重の集計

各段の自重を集計する。

重心位置鉛直荷重モーメント
xVxV
(m)(kN/m)(kN/m・m)
最上段天端コンクリート0.8107.5906.148
ブロック0.5189.6034.969
裏込めコンクリート1.0683.0483.253
合計20.24014.370
最上段以外ブロック0.61819.20511.859
裏込めコンクリート1.1686.0957.116
合計25.30018.975
基礎部基礎コンクリート0.6508.9705.831

段ごとの重心の計算

最上段

xG=14.37020.240=0.710 m
最上段以外
xG=18.97525.300=0.750 m
基礎部
xG=5.8318.970=0.650 m

2-1-8. 各段の基準点と、基礎部基準点からの荷重の作用位置

擁壁基礎部の前面下端から基準点までの距離を算出する。
その距離に、基準点から各段の重心位置までの距離を加算し、作用位置を算出する。
図は、2段目の基準点、重心位置、作用位置を示している。

基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外 最上段xS
6段目2.1000.7102.810
5段目1.7000.7502.450
4段目1.3000.7502.050
3段目0.9000.7501.650
2段目0.5000.7501.250
1段目0.1000.7500.850
基礎部0.0000.6500.650

2-2. 土圧

主働土圧は、試行くさび法によって算出する。(H24道擁p100)

擁壁上の盛土が平坦な場合(嵩上げ盛土がない場合)は、主働土圧合力は下式で算出できる。(H24道擁p101)

P=Wsin(ωϕ)cos(ωϕαδ)
W=buH2γs+qbu
bu=(1tanω+tanα)H
ここに、
  • P:主働土圧合力(kN/m)
  • W:土くさび重量(載荷重を含む)(kN/m)
  • bu:土塊上の上載荷重の作用幅(m)
  • ω:仮定したすべり面と水平面のなす角(° )
  • ϕ:裏込め土のせん断抵抗角(° )
  • α:壁背面と鉛直面のなす角(鉛直面より左回り正)(° )
    • α=tan1n=tan10.4=21.8
  • δ:壁面摩擦角(° )
    • δ=23ϕ=23×35=23.3(H24道擁p99)

すべり面の下端は、擁壁の背面勾配を延長し、基礎底面と交差する点とする。

📌NOTE
  • 壁背面と鉛直面のなす角αは、「負」の値となります。
  • これは、H24道擁p101の図のとおり、重力式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されているからです。
  • ちなみに、後述の「3-4. 支持に対する照査」では、同じ角度である壁面傾斜角θの符号が逆になります。

よって、

P=Wsin(ωϕ)cos(ωϕαδ)=Wsin(ω35)cos(ω3521.823.3)=Wsin(ω35)cos(ω36.5)
W=buH2γs+qbu=bu6.100219+10bu=67.950bu
bu=(1tanω+tanα)H=(1tanω+tan21.8)6.100=(1tanω0.400)6.100=6.100tanω2.440

すべり角ωを変化させて、主働土圧合力Pの最大値を求める。

上の式を用いて、表計算すると下記のとおりとなる。

すべり角
ω
(° )
上載幅
bu
(m)
土くさび重量
W
(kN/m)
主働土圧合力
P
(kN/m)
48 3.052 207.415 47.608
49 2.863 194.517 48.194
50 2.679 182.005 48.438
51 2.500 169.853 48.351
52 2.326 158.041 47.943

よって、土圧合力が最大となるすべり角は

ω=50 °

その時の主働土圧合力は

PA=48.438 kN/m

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分
PH=PAcos(α+δ)=48.438×cos(21.8+23.3)=48.421 kN/m
鉛直成分
PV=PAsin(α+δ)=48.438×sin(21.8+23.3)=1.296 kN/m
作用位置
yA=H3=6.1003=2.033 m
xA=BhB×nBb+yA×n=1.3000.300×0.40.100+2.033×0.4=1.893 m

3. 擁壁の安定性の照査

擁壁自体の安定性を照査する。

3-1. 作用力の集計

照査にあたり、作用力を集計する。

自重と土圧について、上記のとおり鉛直力と水平力をそれぞれ算出しましたので、作用位置までの距離を乗じて、モーメントを算出する。

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.81056.874
5段目25.3002.45061.985
4段目25.3002.05051.865
3段目25.3001.65041.745
2段目25.3001.25031.625
1段目25.3000.85021.505
基礎部8.9700.6505.831
土圧1.29648.4211.8932.0332.45498.455
合計157.00648.421273.88498.455

3-2. 転倒に対する照査

まず、「作用力の合力位置d」を求める。
作用力の合力位置は、底面つま先から合力の作用点までの水平距離であり、次のとおり求められる。(H24道擁p117)
d=ΣMxΣMyΣV=273.88498.455157.006=1.117 m
「1. 設計条件」で定めた「転倒に対する安定条件」のとおり、安定に必要な合力位置は擁壁底面の中央より後方であるため、許容最小距離は次のとおり求められる。
B2=1.3002=0.650 m

以上より、作用力の合力位置d=1.117、許容最小距離0.650なので、

d=1.117>B2=0.650  OK

よって、転倒に対しては安全である。

3-3. 滑動に対する照査

下式のとおり、滑動に対する抵抗力を滑動力で除して、安全率を算出する。(H24道擁p113)

Fs=ΣVμ+cBBΣH

このうち、付着力cB=0であるため、下式のとおり、安全率を算出する。

Fs=ΣVμΣH=157.006×0.60048.421=1.946

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、滑動に対する安全率Fsa=1.5である。

Fs=1.946Fsa=1.5  OK

よって、滑動に対しては安全である。

3-4. 支持に対する照査

作用力の合力位置が擁壁底面幅の1/2より後方にある(dB/2)ため、簡便法で計算する(H24道擁p164)

Qt=MaκdBΣVBsinθ(1κd)+(1κ/3)
QV=ΣVQtsinθ
QH=ΣH+Qtcosθ
qv1=2QV(23κd)B
qv2=2QV(3κd1)B
qt=2Qtκ

ここに、

  • Ma:擁壁底面のつま先回りの作用モーメント(kN・m/m)
    Ma=ΣMxΣMy=273.88498.455=175.429
  • :壁面長(m)
     =H×1+nr2=6.100×1+0.4002=6.570
  • θ:壁面傾斜角(壁面より左回り正)
    • θ=tan1nr=tan10.4=21.8 °
  • QV:擁壁底面に発生する鉛直地盤反力(kN/m)
  • QH:擁壁底面に発生する水平地盤反力(kN/m)
  • Qt:擁壁背面に発生する壁面地盤反力(kN/m)
    • ただし、dκdBのとき、Qt=0
  • qv1:擁壁底面の前方に発生する鉛直地盤反力度(kN/m²)
  • qv2:擁壁底面の後方に発生する鉛直地盤反力度(kN/m²)
  • qt:擁壁背面に発生する最大壁面地盤反力度(kN/m²)
  • dp:擁壁底面のつま先からの鉛直地盤反力の作用位置(m)
  • 1:擁壁底面から壁面地盤反力度が発生する位置までの区間長(m)
  • 2:壁面地盤反力度が発生する区間長(m)
  • κ:壁面地盤反力度が発生する区間長ℓ₂と擁壁壁面長ℓとの比(下表による)
    • κ=0.60
  • κd:壁面底面のつま先からの鉛直地盤反力度の作用位置dpと擁壁底面幅Bとの比
    • κd=0.56
背面勾配 1:0.3 1:0.4 1:0.5
κ=/ 0.50 0.60 0.70
📌NOTE
  • 壁面傾斜角θの符号は「正」になります。
  • ところが、前述「2-2. 土圧」のとおり、土圧の計算では、同じ角であるαは、「負」の値です。
  • これは、H24道擁p164のとおり壁面傾斜角θがもたれ式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されている一方、土圧の計算ではH24道擁p101の図のとおり、重力式擁壁の場合に「正」となるよう計算式が定義されているからです。

「3-2. 転倒に対する照査」より、

d=1.117

また、

κdB=0.56×1.300=0.728
よって、d>κdBなので、
Qt=MaκdBΣVBsinθ(1κd)+(1κ/3)=175.4290.561.300157.0061.300sin21.8(10.56)+6.570(10.60/3)=175.429114.3001.300×0.371×0.44+6.570×0.80=61.1285.468=11.179
QV=ΣVQtsinθ=157.00611.179sin21.8=152.855
QH=ΣH+Qtcosθ=48.421+11.179cos21.8=58.800
2=κ=0.60×6.570=3.942
1=2=6.5703.942=2.628
qt=2Qtκ=2×11.1790.60×6.570=22.3573.942=5.672
qv1=2QV(23κd)B=2×152.855(23×0.56)1.300=97.8271.300=75.252
qv2=2QV(3κd1)B=2×152.855(3×0.561)1.300=207.8831.300=159.910

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、許容鉛直支持力度qa=300である。

よって、

qv1=75.252qa=300  OKqv2=159.910qa=300  OK

よって、支持に対しては安全である。

4. 部材の安全性の照査

4-1. 荷重の計算

4-1-1. 自重

「2-1. 自重」で算出した値とする。

4-1-2. 土圧

最大の主導土圧合力PAより、主働土圧係数KAを逆算する。(H24道擁p101)

「2-2. 土圧」より、

PA=48.438 kN/m
KA=2PAγsH2=2×48.43819×6.1002=0.137

任意位置に作用する主働土圧強度paiは、定義より下式で算出できる。

pai=KAγshi=0.137×19×hi=2.603hi
📌NOTE
主働土圧係数と、主働土圧強度の解説は、下記の記事をご覧ください。
主働土圧係数

主働土圧係数

この記事では、主働土圧係数係数について解説します。

任意の位置の土圧合力Paiは、下式で算出できる。

Pai=paihi2

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分
PiH=Paicos(α+δ)=Pai×cos(21.8+23.3)=1.000Pai
鉛直成分
PiV=Paisin(α+δ)=Pai×sin(21.8+23.3)=0.027Pai
作用位置
yai=hi3
xai=b+yai×n=1.100+yai×0.4=1.100+0.4yai

高さを変化させて、それぞれの作用位置とモーメントを表計算で求める。

高さ土圧強度土圧合力鉛直力水平力作用位置(アーム長)
hipaiPaiPiVPiHxaiyai
(m)(kN/m²)(kN/m)(kN/m)(kN/m)(m)(m)
6段目0.8002.0830.8330.0220.8331.2070.267
5段目1.8004.6864.2180.1134.2161.3400.600
4段目2.8007.29010.2060.27310.2021.4730.933
3段目3.8009.89318.7970.50318.7911.6071.267
2段目4.80012.49729.9920.80329.9821.7401.600
1段目5.80015.10043.7911.17243.7751.8731.933

4-1-3. 壁面地盤反力

前述の「3-4.支持に対する照査」と同様、簡便法で計算する。(H24道擁p164)

「3-4.支持に対する照査」より、
  • =6.570 m
  • κ=0.60
  • 2=3.942 m
  • Qt=11.179 kN/m
  • qt=5.672 kN/m2
  • θ=21.8 °
壁面地盤反力度が作用する背面の延長ziは下式で算出できる。
zi=zicosθ=zicos21.8=1.077zi

照査断面位置の壁面地盤反力度qtは、三角形の相似より下式で算出できる。

qt=κziκqt=0.60×6.570zi0.60×6.570×5.672=5.6721.439zi

壁面地盤反力の合力Qtziは台形の面積なので、下式で算出できる。

Qtzi=(qt+qt)×zi2=(5.672+5.6721.439zi)×zi2=5.672zi0.719zi2

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分

QiH=Qtzicosθ=Qtzicos21.8=0.928Qtzi

鉛直成分

QiV=Qtzisinθ=Qtzisin21.8=0.371Qtzi

作用位置

xzi=b+yzi×n=1.100+yzi×0.4=1.100+0.4yzi
zi<2の場合
yzi=2qt+qt3(qt+qt)zi×cosθ=25.672+5.6721.439zi3(5.672+5.6721.439zi)zi×cos21.8=17.0151.439zi34.0304.316zizi×0.928=15.7981.336zi34.0304.316zizi
zi=2の場合
yzi=hi13zi×cosθ=hi13zi×cos21.8=hi13zi×0.928=hi0.309zi

高さを変化させて、それぞれの作用位置とモーメントを表計算で求める。

高さzi<2鉛直力水平力作用位置(アーム長)
hiziziorQtziQiVQiHxziyzi
(m)(m)(m)zi=2(kN/m)(kN/m)(kN/m)(m)(m)
6段目0.8000.8000.862zi<24.353-1.6164.0411.2670.416
5段目1.8001.8001.939zi<28.291-3.0797.6991.4990.998
4段目2.8002.8003.016zi<210.561-3.9229.8061.7761.689
3段目3.8003.6603.942zi=211.179-4.15110.3792.1322.580
2段目4.8003.6603.942zi=211.179-4.15110.3792.5323.580
1段目5.8003.6603.942zi=211.179-4.15110.3792.9324.580

4-2. 荷重の集計

作用位置と荷重を各段で集計する。

4-2-1. 6段目

作用位置は、基準点に重心位置を加算して算出する。

基準点の位置は、各段のブロック前面下部とする。

重心位置は、「2-1-7. 自重の集計」で求めた値とする。

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目0.0000.7100.710

荷重は、自重、土圧、地盤反力の3つについて集計する。

それぞれの鉛直力に、作用位置を乗じて、モーメントを算出する。

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2400.71014.370
土圧0.0220.8331.2070.2670.0270.222
地盤反力-1.6164.0411.2670.416-2.0471.683
合計18.6464.87412.3501.905

4-2-2. 5段目

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目0.4000.7101.110
5段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.11022.466
5段目25.3000.75018.975
土圧0.1134.2161.3400.6000.1512.530
地盤反力-3.0797.6991.4990.998-4.6167.682
合計42.57411.91536.97710.211

4-2-3. 4段目

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目0.8000.7101.510
5段目0.4000.7501.150
4段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.51030.562
5段目25.3001.15029.095
4段目25.3000.75018.975
土圧0.27310.2021.4730.9330.4029.522
地盤反力-3.9229.8061.7761.689-6.96416.563
合計67.19120.00872.07026.085

4-2-4. 3段目

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目1.2000.7101.910
5段目0.8000.7501.550
4段目0.4000.7501.150
3段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2401.91038.658
5段目25.3001.55039.215
4段目25.3001.15029.095
3段目25.3000.75018.975
土圧0.50318.7911.6071.2670.80823.801
地盤反力-4.15110.3792.1322.580-8.85126.778
合計92.49229.170117.90150.579

4-2-5. 2段目

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目1.6000.7102.310
5段目1.2000.7501.950
4段目0.8000.7501.550
3段目0.4000.7501.150
2段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.31046.754
5段目25.3001.95049.335
4段目25.3001.55039.215
3段目25.3001.15029.095
2段目25.3000.75018.975
土圧0.80329.9821.7401.6001.39647.970
地盤反力-4.15110.3792.5323.580-10.51137.157
合計118.09140.361174.26085.128

4-2-6. 1段目

作用位置
基準点重心位置作用位置
x基礎部最上段以外最上段xS
6段目2.0000.7102.710
5段目1.6000.7502.310
4段目1.2000.7501.950
3段目0.8000.7501.550
2段目0.4000.7501.150
1段目0.0000.7500.750

鉛直力、水平力、モーメント

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
VHxyMx=VxMy=Hy
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重6段目20.2402.71054.850
5段目25.3002.35059.455
4段目25.3001.95049.335
3段目25.3001.55039.215
2段目25.3001.15029.095
1段目25.3000.75018.975
土圧1.17243.7751.8731.9332.19584.632
地盤反力-4.15110.3792.9324.580-12.17247.536
合計143.76054.154240.949132.168

4-3. 応力度算出と判定

コンクリート断面の図心軸から軸方向力の作用点までの距離(偏心距離e)は下式で算出できる。
e=b2ΣMxΣMyΣV
底面幅鉛直力水平力0点のモーメント偏心距離
bΣVΣHΣMxΣMye
(m)(kN/m)(kN/m)(kN・m/m)(kN・m/m)(m)
6段目1.10018.6464.87412.3501.905-0.010
5段目1.10042.57411.91536.97710.211-0.079
4段目1.10067.19120.00872.07026.085-0.134
3段目1.10092.49229.170117.90150.579-0.178
2段目1.100118.09140.361174.26085.128-0.205
1段目1.100143.76054.154240.949132.168-0.207

無筋コンクリート部材断面に生じる圧縮(曲げ引張)応力度は下式で算出できる。(H24道擁143)

σc=NA±NeW
ここに、
  • σc:コンクリート断面の縁応力度
  • N:軸方向力
    • N=ΣV×1.000
  • A:コンクリート全断面積(延長方向は1.0mとする。)
    A=b×1.000=1.100×1.000=1.100 m2
  • e:偏心距離
  • W:コンクリートの図心軸に関する断面係数
    W=1.000b26=1.000×1.10026=0.202 m3

よって、縁応力度(圧縮:正、曲げ引張:負)を判定すると、下表のとおり。

軸方向力偏心距離縁応力度縁応力度判定
Neσc1σc2σc1σc2圧縮曲げ引張
(kN)(m)(kN/m²)(kN/m²)(N/mm²)(N/mm²)≦4.50≧-0.23
6段目18.646-0.01017.89316.0080.0180.016OKOK
5段目42.574-0.07955.31322.0940.0550.022OKOK
4段目67.191-0.134105.86216.3040.1060.016OKOK
3段目92.492-0.178165.6592.5070.1660.003OKOK
2段目118.091-0.205227.266-12.5550.227-0.013OKOK
1段目143.760-0.207278.026-16.6430.278-0.017OKOK

無筋コンクリート部材断面に生じる平均せん断応力度は下式で算出できる。(H24道擁145)

τm=Sbd=S1.100×1.000=S1.100
ここに、
  • τm:部材断面に生じるコンクリートの平均せん断応力度
  • S:部材のせん断力
    • S=ΣH×1.000

よって、せん断応力度を判定すると、下表のとおり。

せん断力せん断応力度せん断応力度判定
Sτmτmτa
(kN)(kN/m²)(N/mm²)≦0.33
6段目4.8744.4310.004OK
5段目11.91510.8320.011OK
4段目20.00818.1890.018OK
3段目29.17026.5180.027OK
2段目40.36136.6910.037OK
1段目54.15449.2310.049OK
📌NOTE
  • この設計計算では、どの許容値も余裕をもって満足する結果になっています。
  • 市場に流通している大型ブロックには空隙があり、この設計計算で設定した擁壁の寸法で計算すると「滑動に対する照査」で危険側に推移します。
  • このため、余裕をもたせた設計にして、擁壁の寸法が実務と差異が小さくなるようにしています。

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

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