この記事では、道路に設置される「重力式擁壁(重要度1)」をエクセルで設計計算した結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

これから解説する内容は、社団法人日本道路協会が平成24年7月に発行した道路土工擁壁工指針(以下、H24道擁という。)に基づいています。

今回の紹介する設計プロセスは「擁壁上に嵩上げ盛土、地下水なし、重要度1、擁壁高さ5m以下」が適用範囲です。(H24道擁p27)

下記の画像は、設計のフローチャートです。

1. 設計条件

1-1. 形状寸法

  • 擁壁高:$H=2.000\ \mathrm{m}$
  • 天端幅:$b=0.400\ \mathrm{m}$(H24道擁p158)
  • 底面幅:$B=1.400\ \mathrm{m}$(H24道擁p158)
  • 前面勾配:$n_1=0.000$
  • 背面勾配:$n_2=0.500$
📌NOTE
  • 重力式擁壁の天端幅は、「15~40cm程度を目安にするのがよい」と、H24道擁p158に記載されているため、本設計では、40cmを採用しています。
  • 底面幅については、H24道擁p158に「擁壁高$H$に対し0.5~0.7倍程度を目安にするのがよい」と記載されているので、0.7倍を採用しています。
  • なお、擁壁高、天端幅、底面幅を設定し、前面勾配$n_1=0.000$とすると、背面勾配$n_2=0.500$が自動的に決定します。

1-2. 背面土砂形状

  • 盛土高:$H_0=1.000\ \mathrm{m}$
  • 勾配部分長(水平方向):$b_1=1.800\ \mathrm{m}$
  • 背面勾配:$n_3=1.800$

1-3. コンクリート規格

  • 設計基準強度:$\sigma_{ck}=18\ \mathrm{N/mm^2}$
  • 単位体積重量:$\gamma_c=23\ \mathrm{kN/m^3}$(H24道擁p52)

1-4. 裏込め材料

  • 裏込め土:礫質土
  • せん断抵抗角:$\phi=35\ \mathrm{° }$(H24道擁p66)
  • 単位体積重量:$\gamma_s=20\ \mathrm{kN/m^3}$(H24道擁p66)
  • 粘着力:$c=0\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p66)
📌NOTE
  • 本設計では、H24道擁p158が示す形状寸法になるよう擁壁、背面土砂形状などを設定しています。
  • しかし、「重要度1(地震時の照査が必要)」の場合、裏込め土を「礫質土」としなければ、地震時の滑動に対する照査でNGとなります。
  • また、下述の支持地盤についても、摩擦係数0.7以上となる地盤でなければ、滑動に対する照査でNGとなります。
  • つまり、H24道擁p158が示す形状寸法の重力式擁壁は、重要度1の場合は限定的な条件下でのみ採用可能となってしまっているのです。

1-5. 支持地盤

  • 土質:岩盤(軟岩)
  • 底面と地盤の摩擦係数:$\mu=0.7$(H24道擁p70)
  • 付着力:$c_B=0\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p70)
  • 許容鉛直支持力度(常時):$q_a=300\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p68,69)
  • 許容鉛直支持力度(地震時):$q_a=450\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p68,69)
  • 中間層に軟弱な土層あるいは液状化が懸念されるゆるい砂質土層:なし

1-6. 上載荷重と地下水位

  • 上載荷重:$q=10\ \mathrm{kN/m^2}$(H24道擁p53)
  • 上載荷重の開始位置:$b_q=2.200\ \mathrm{m}$
  • 地下水位:なし

1-7. 重要度区分と要求性能

擁壁は、その重要度に応じて設計照査の方法(耐震設計の基本方針)を区分します。(H24道擁p42)

  • 重要度1:万が一損傷すると交通機能に著しい影響を与える場合、あるいは隣接する施設に重大な影響を与える場合
  • 重要度2:重要度1に該当するもの以外

この設計計算例では、「重要度1」とします。

📌NOTE
  • 重要度区分は「道路ネットワークとしての重要度」を定義しており、基本的な考え方として自治体が「緊急輸送道路」に設定している道路であれば、「重要度1」に指定します。
  • 重要度の決定は、施設管理者の判断となりますが、う回路の有無など多方面からの検討に基づいて決定することが望ましいと言えます。
  • 重要度の設定方法の一例としては、岐阜県Webサイトに掲載の「道路設計要領 第4-2章 4-2-7」が参考になります。

擁壁の要求性能とは、「擁壁の壊れにくさ」を定義しており、例えば「性能1」であれば、大震災後でも、健全性が保たれ道路を通行することができるほど壊れにくいということです。

要求性能は、3段階に区分されています

  • 性能1:擁壁としての健全性を損なわない
  • 性能2:損傷が限定的なものにとどまり、擁壁としての機能の回復が速やかに行い得る
  • 性能3:損傷が擁壁として致命的とならない

この設計計算例では、重要度より要求性能を下記のとおり決定する。(H24道擁p44)

  • 常時の作用:性能1
  • 降雨の作用:性能1
  • レベル1地震動の作用:性能1
  • レベル2地震動の作用:性能2
📌NOTE
  • 公益社団法人日本道路協会のWebサイトに「道路土工構造物技術基準・同解説(平成29年3月)」出版後の道路土工指針等の取扱いについて記載されています。
  • 同文書の3ページ目には、擁壁工に関する読み替えの例が記載されています。
  • 内容は、「擁壁の要求性能」、「擁壁の限界状態」について読み替えの例となっています。

1-8. 設計方法と照査方法

設計方法は、「H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)」とする。

照査は、「擁壁の安定性」、「部材の安全性」、「排水工、付帯工」の3つに分けて行う。(H24道擁p88)

1-8-1. 擁壁の安定性

「擁壁の安定性」は、さらに「擁壁自体の安定性」、「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安全性」に分けられる。

1-8-1-1. 擁壁自体の安定性の照査

「擁壁自体の安定性」について、H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、所要の性能を確保するとされており、例えば「常時の作用に対して性能1」を満足するとみなしてよいとされている。(H24道擁p88)

また、レベル1地震動に対する設計水平震度に対して、5-3及び5-4に従い擁壁の安定性と部材の安全性を満足すれば、「レベル1地震動の作用に対して性能1」、「レベル2地震動の作用に対して性能3」を満足するとされている。(H24道擁p89)

さらに、レベル2地震動に対する設計水平震度に対して、5-3及び5-4に従い擁壁の安定性と部材の安全性を満足すれば、「レベル2地震動の作用に対して性能2」を満足するとされている。(H24道擁p89)

一方、設計水平震度において、レベル1地震動よりレベル2地震動の方が大きいため、レベル2の地震動に対する照査を行えば、レベル1地震動の照査は省略できる。(H24道擁p96)

さらに、今回は「地下水位がないこと」、および「排水工を適切に設置すること」を前提とし、「水圧の影響を考慮しない」こととなる。(H24道擁p55)

このため、「降雨の作用」については、通常、常時の作用における荷重の一項目として扱うが、今回はその荷重がないため、降雨に作用に対する照査を省略する。(H24道擁p49,88)

1-8-1-2. 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性

「背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性」については、「1-5.支持地盤」に示したとおり、検討を要する層がないため、検討は不要となる。(H24道擁p111)

1-8-2. 部材の安全性

今回の重力式擁壁に「つま先版」が存在しない一般的な形状であるため、「部材の安全性の照査」は不要です。(H24道擁p158)

1-8-3. 排水工、付帯工

排水工は、上述の降雨による照査が不要となるようH24道擁p203の「5-9 排水工」に従い適切に設計するとこととする。

付帯工は、H24道擁p212の「5-10 付帯工」に従い設計することとする。

1-8-4. まとめ

まとめると、今回の設計例での設計方法と必要な照査は以下のとおり。

  • 設計方法:H24道擁の第5章に示した慣用的な設計方法(慣用法)
  • 照査方法

    • 擁壁の安定性の照査

      • 擁壁自体の安定性の照査

        • 常時の作用で照査:
        • 降雨の作用で照査:不要
        • レベル1地震動の$k_h$で照査:不要
        • レベル2地震動の$k_h$で照査:
      • 背面盛土及び基礎地盤を含む全体としての安定性の検討:不要

    • 部材の安全性の照査:不要
    • 排水工、付帯工:適切に設計する

1-9. 地盤条件

  • 地域区分:A(H21道路土工要綱p352)
  • 地域別補正係数:$c_z=1.00$
  • 地盤種別:Ⅱ種(H21道路土工要綱p354)

1-10. 設計水平震度

  • レベル2地震動:$k_h=1.00 \times 0.20 = 0.20$ (H24道擁p96)
📌NOTE

1-11. 照査のおける荷重の組み合わせ

照査は、「常時」と「地震時」について行う。

地震時には上載荷重を考慮しないため、下表のとおりの荷重の組み合わせとする。(H24道擁p51)

自重土圧
躯体地震上載荷重主働土圧地震
常時有り有り有り
地震時有り有り有り有り
📌NOTE
  • 一般には、常時の作用に対しては「自重+載荷重+土圧」の組み合わせに加えて、「自重+土圧」の組み合わせについても設計を行うとされています。(H24道擁p51)
  • これは、載荷重を無視すると、転倒に対する照査が危険側に推移することがあるからです。
  • 今回の設計例では、エクセルの入力項目のうち、「上載荷重」を「10」から「0」にしてみても、「3-1-2.転倒に対する照査」で算出される偏心距離$e$の値が「0.200」のままで、安定性に変化はありません。
  • このため、本来は「自重+土圧」の組み合わせも照査の対象にするのが正しいのですが、エクセル上で簡単に確認できるため、省略しています。

1-12. 照査における許容値

照査に用いる許容値は以下のとおりとする。(許容鉛直支持力度は「1-5. 支持地盤」より再掲)

常時地震時
転倒に対する安定条件(H24道擁p118)$\displaystyle |e| \leq \frac{B}{6}$$\displaystyle|e| \leq \frac{B}{3}$
滑動に対する許容安全率(H24道擁p113)1.51.2
許容鉛直支持力度(H24道擁p68,69)300 kN/m²450 kN/m²
許容変位(H24道擁p110)省略省略

2. 設計に用いる荷重

2-1. 自重

まず、自重の重心(擁壁前面の底面部からの距離)を求めることとする。

擁壁断面を区分し、それぞれの面積、重心と擁壁前面・底面から距離、およびモーメントを下表のとおり求める。

区分 高さ 面積$A$ $x$ $y$ $Ax$ $Ay$
0.400 2.000 0.800 0.200 1.000 0.160 0.800
1.000 2.000 1.000 0.733 0.667 0.733 0.667
Σ 1.800 0.893 1.467
擁壁全体の重心位置(擁壁前面の底面部からの距離)は、下式により求められる。
$$ \begin{equation} \begin{split} x_c &= \frac{\Sigma A x}{\Sigma A}\\[5px] &= \frac{0.893}{1.800}\\[5px] &= 0.496 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} y_c &= \frac{\Sigma A y}{\Sigma A}\\[5px] &= \frac{1.467}{1.800}\\[5px] &= 0.815 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

自重$W_c$は、擁壁の断面積$A$に、コンクリートの単位体積重量$\gamma_c$を乗じて算出する。

$$ \begin{equation} \begin{split} W_c &= \Sigma A \cdot \gamma_c\\[5px] &= 1.800 \cdot 23\\[5px] &= 41.400 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
地震による水平力$H_c$は、自重$W_c$に、設計水平震度$k_h$を乗じて算出する。
$$ \begin{equation} \begin{split} H_c &= W_c \cdot k_h\\[5px] &= 41.400 \cdot 0.20\\[5px] &= 8.280 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-2. 土圧

2-2-1. 土塊面積の算出

土塊の上の幅$b_u$は、下式により求められる。
$$ \begin{equation} \begin{split} b_u &= B + \frac{H + H_0}{\tan \omega} - b_q\\[5px] &= 1.400 + \frac{2.000 + 1.000}{\tan \omega} - 2.200\\[5px] &= \frac{3.000}{\tan \omega}- 0.800 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

土塊の擁壁天端における幅$b_3$は、下式により求められる。

$$ \begin{equation} \begin{split} b_3 &= B + \frac{H}{\tan \omega} - b\\[5px] &= 1.400 + \frac{2.000}{\tan \omega} - 0.400\\[5px] &= \frac{2.000}{\tan \omega}+ 1.000 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

擁壁天端より上の土塊面積$A_1$は、下式により求められる。

$$ \begin{equation} \begin{split} A_1 &= \frac{b_u + b_3}{2} \cdot H_0\\[5px] &= \left( \frac{3.000}{\tan \omega} - 0.800 + \frac{2.000}{\tan \omega} + 1.000 \right)/2 \cdot 1.000\\[5px] &= \left(\frac{5.000}{\tan \omega} + 0.200 \right)/2 \cdot 1.000\\[5px] &= \frac{2.500}{\tan \omega} + 0.100 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

擁壁天端より下の土塊面積$A_2$は、下式により求められる。

$$ \begin{equation} \begin{split} A_2 &= \frac{b_3}{2} \cdot H\\[5px] &= \left( \frac{2.000}{\tan \omega} + 1.000 \right)/2 \cdot 2.000\\[5px] &= \frac{2.000}{\tan \omega} + 1.000 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-2-2. 常時

主働土圧は、試行くさび法によって算出する。(H24道擁p100)
$$ \begin{equation} \begin{split} P_A=\frac{W \cdot \sin(\omega - \phi)}{\cos(\omega - \phi - \alpha - \delta)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W = (A_1 + A_2)\cdot \gamma_s + q \cdot b_u \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} b_u= \frac{3.000}{\tan\omega}-0.800 \end{split}\nonumber \end{equation} $$
ここに、
  • $P_A$:主働土圧合力(kN/m)
  • $W$:上載荷重を含んだ土くさび重量(kN/m)
  • $b_u$:土塊の上の幅(m)
  • $\omega$:仮定したすべり面と水平面のなす角(° )
  • $\phi$:裏込め土のせん断抵抗角(° )
  • $\alpha$:壁背面と鉛直面のなす角(° )
    • $\alpha= \tan^{-1}n_2=\tan^{-1}0.500=26.570$
  • $\delta$:壁面摩擦角(° )
    • $\displaystyle \delta = \frac{2}{3}\cdot \phi = \frac{2}{3}\times 35 =23.330$(H24道擁p99)

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} P_A &=\frac{W \cdot \sin(\omega - \phi)}{\cos(\omega - \phi - \alpha - \delta)}\\[5px] &=\frac{W \cdot \sin(\omega - 35)}{\cos(\omega - 35 - 26.570 - 23.330)}\\[5px] &= \frac{W \cdot \sin(\omega - 35)}{\cos(\omega - 84.900)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W &= (A_1 + A_2) \cdot \gamma_s + q \cdot b_u\\[5px] &= \left( \frac{2.500}{\tan \omega}+0.100 +\frac{2.000}{\tan \omega}+1.000 \right) \cdot 20 + 10 \cdot b_u\\[5px] &= \left( \frac{4.500}{\tan \omega}+1.100 \right) \cdot 20 + 10 \cdot b_u\\[5px] &= \frac{90.000}{\tan \omega} + 22.000 + 10 \cdot b_u \end{split}\nonumber \end{equation} $$

すべり角$\omega$を変化させて、主働土圧合力$P_A$の最大値を求める。
上の式を用いて、表計算すると下記のとおりとなる。

すべり角
$\omega$
(° )
上載幅
$b_u$
(m)
土くさび重量
$W$
(kN/m)
主働土圧合力
$P_A$
(kN/m)
55 1.301 98.025 38.674
56 1.224 94.941 38.864
57 1.148 91.929 38.966
58 1.075 88.984 38.987
59 1.003 86.103 38.932
60 0.932 83.282 38.804
61 0.863 80.517 38.607

よって、土圧合力が最大となるすべり角は

$$ \begin{equation} \begin{split} \omega = 58 \ \mathrm{° } \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の土くさび重量は

$$ \begin{equation} \begin{split} W=88.984 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の主働土圧合力は

$$ \begin{equation} \begin{split} P_A=38.987 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。

水平成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{Ah} &= P_A \cdot \cos(\alpha + \delta)\\[5px] &= 38.987 \times \cos(26.570 + 23.330)\\[5px] &= 25.113\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
鉛直成分
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{Av} &= P_A \cdot \sin(\alpha + \delta)\\[5px] &= 38.987 \times \sin(26.570 + 23.330)\\[5px] &= 29.822\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
作用位置
$$ \begin{equation} \begin{split} y_A &= \frac{H}{3} \\[5px] &= \frac{2.000}{3}\\[5px] &= 0.667\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} x_A &= B - \tan \alpha \times y_A \\[5px] &= 1.400 - \tan 26.570 \times 0.667\\[5px] &= 1.067\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

2-2-3. 地震時

常時と同様に主働土圧は、試行くさび法によって算出する。
ただし、「1-11. 照査における荷重の組み合わせ」のとおり上載荷重はなく、地震時土圧(水平方向の慣性力)を考慮する。
$$ \begin{equation} \begin{split} P_E =\frac{W_E / \cos \theta \cdot \sin(\omega_E - \phi + \theta)}{\cos(\omega_E - \phi - \alpha - \delta_E)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W_E &= (A_1 + A_2) \cdot \gamma_s \end{split}\nonumber \end{equation} $$
ここに、
  • $P_E$:主働土圧合力(kN/m)
  • $W_E$:土くさび重量(kN/m)
  • $\omega_E$:仮定したすべり面と水平面のなす角(° )
  • $\phi$:裏込め土のせん断抵抗角(° )
  • $\alpha$:壁背面と鉛直面のなす角(° )
    • $\alpha= \tan^{-1}n_2=\tan^{-1}0.500=26.570$
  • $\delta_E$:壁面摩擦角(° )
    • $\displaystyle \delta_E = \frac{1}{2}\cdot \phi = \frac{1}{2}\times 35 =17.500$(H24道擁p99)
  • $\theta$:地震合成角(° )
    • $\theta = \tan^{-1} k_h = \tan^{-1}0.20 = 11.310$
📌NOTE
  • 地震時の主導土圧合力$P_E$を算出する数式は、H24道擁に記載されていませんが、力の連なりを示した「連力図」を解けばよいとされています。(H24道擁p108, 109)
  • 今回の設計例では、粘着力$c=0$と想定しているので、連力図はご覧のとおりとなります。
  • これより、地震時の主働土圧合力$P_E$が上述の式のとおりとなります。

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} P_E &=\frac{W_E / \cos \theta \cdot \sin(\omega_E - \phi + \theta)}{\cos(\omega_E - \phi - \alpha - \delta_E)}\\[5px] &=\frac{W_E / \cos 11.310 \cdot \sin(\omega_E - 35 + 11.310)}{\cos(\omega_E - 35 - 26.570 - 17.500)}\\[5px] &= \frac{W_E / 0.981 \cdot \sin(\omega_E - 23.690)}{\cos(\omega_E - 79.070)} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} W_E &= (A_1 + A_2) \cdot \gamma_s\\[5px] &= \left( \frac{2.500}{\tan \omega_E} + 0.100 + \frac{2.000}{\tan \omega_E} +1.000 \right) \cdot 20\\[5px] &= \left( \frac{4.500}{\tan \omega_E} + 1.100 \right) \cdot 20\\[5px] &= \frac{90.000}{\tan \omega_E} + 22.000 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

すべり角$\omega_E$を変化させて、主働土圧合力$P_E$の最大値を求める。

すべり角
$\omega_E$
(° )
土くさび重量
$W_E$
(kN/m)
主働土圧合力
$P_E$
(kN/m)
45 112.000 50.110
46 108.912 50.314
47 105.926 50.443
48 103.036 50.503
49 100.236 50.497
50 97.519 50.432
51 94.881 50.312

よって、土圧合力が最大となるすべり角は

$$ \begin{equation} \begin{split} \omega_E = 48 \ \mathrm{° } \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の土くさび重量は

$$ \begin{equation} \begin{split} W_E=103.036 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の地震時土圧(水平方向の慣性力)は

$$ \begin{equation} \begin{split} k_h \cdot W_E &= 0.20 \times 103.036 \\[5px] &= 20.607 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

その時の主働土圧合力は

$$ \begin{equation} \begin{split} P_E=50.503 \ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
このとき、土圧合力の水平成分、鉛直成分、作用位置は次のとおりとなる。
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{Eh} &= P_E \cdot \cos(\alpha + \delta_E)\\[5px] &= 50.503 \times \cos(26.570 + 17.500)\\[5px] &= 36.286\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} P_{Ev} &= P_E \cdot \sin(\alpha + \delta_E)\\[5px] &= 50.503 \times \sin(26.570 + 17.500)\\[5px] &= 35.126\ \mathrm{kN/m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} y_E &= \frac{H}{3} \\[5px] &= \frac{2.000}{3}\\[5px] &= 0.667\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} x_E &= B - \tan \alpha \times y_E \\[5px] &= 1.400 - \tan 26.570 \times 0.667\\[5px] &= 1.067\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

3. 擁壁の安定性の照査

擁壁自体の安定性を照査する。

3-1. 常時

3-1-1. 作用力の集計

照査にあたり、作用力を集計します。

自重と土圧について、上記のとおり鉛直力と水平力をそれぞれ算出しましたので、作用位置までの距離を乗じて、モーメントを算出します。

鉛直力水平力作用位置(アーム長)モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重41.4000.0000.49620.5470.000
土圧29.82225.1131.0670.66731.80816.742
合計71.22225.11352.35516.742

3-1-2. 転倒に対する照査

まず、許容偏心距離$e_a$を算出する。「1. 設計条件」で定めた「転倒に対する安定条件」より、次のとおり求められる。
$$ \begin{equation} \begin{split} e_a &= \frac{B}{6} \\[5px] &= \frac{1.400}{6}\\[5px] &= 0.233\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
次に「作用力の合力位置$d$」を求める。
作用力の合力位置は、底面つま先から合力の作用点までの水平距離であり、次のとおり求められる。(H24道擁p117)
$$ \begin{equation} \begin{split} d &= \frac{\Sigma M_x - \Sigma M_y}{\Sigma V} \\[5px] &= \frac{52.355 - 16.742}{71.222}\\[5px] &= 0.500\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
作用力の偏心距離$e$は、底面中心から作用力の合力位置まで距離であるため、次のとおり求められる。(H24道擁p118)
$$ \begin{equation} \begin{split} e &= \frac{B}{2} - d \\[5px] &= \frac{1.400}{2} - 0.500\\[5px] &= 0.200\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

以上より、作用力の偏心距離$e=0.200$、許容偏心距離$e_a=0.233$なので、

$$ \begin{equation} \begin{split} e=0.200 \leqq e_a \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、転倒に対しては安全である。

3-1-3. 滑動に対する照査

下式のとおり、滑動に対する抵抗力を滑動力で除して、安全率$F_s$を算出する。(H24道擁p113)

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s = \frac{\Sigma V \cdot \mu + c_B \cdot B'}{\Sigma H} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $B'$:荷重の偏心を考慮した擁壁底面の有効載荷幅(m)
    $$ \begin{equation} \begin{split} B'=B-2e=1.400-2 \times 0.200 = 1.000 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s &= \frac{\Sigma V \cdot \mu + c_B \cdot B'}{\Sigma H} \\[5px] &= \frac{71.222 \times 0.7 + 0 \times 1.000}{25.113}\\[5px] &= 1.985 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、滑動に対する許容安全率$F_{sa}=1.5$である。

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s=1.985 \geqq 1.5 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、滑動に対しては安全である。

3-1-4. 支持に対する照査

底面幅$B=1.400 \mathrm{m}$の中心から1/6の距離は、$1.400\times 1/6= 0.233 \mathrm{m}$である。
この値を2倍すると底面幅の1/3(ミドルサード)である。

作用力の偏心距離$e=0.200 \mathrm{m}$は、$0.233\mathrm{m}$以下であるため、作用力の合力位置は、底面幅中央の1/3(ミドルサード)内にある。

このとき、地盤反力は台形分布となり、その擁壁底面端部における地盤反力度$q_1$、$q_2$は下式で算出できる。(H24道擁p120)

$$ \begin{equation} \begin{split} q_1 &= \frac{\Sigma V}{B} \left( 1+ \frac{6 \cdot e}{B} \right) \\[5px] &= \frac{71.222}{1.400} \left( 1+ \frac{6 \cdot 0.200}{1.400} \right) \\[5px] &= 94.472\ \mathrm{kN/m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
$$ \begin{equation} \begin{split} q_2 &= \frac{\Sigma V}{B} \left( 1- \frac{6 \cdot e}{B} \right) \\[5px] &= \frac{71.222}{1.400} \left( 1- \frac{6 \cdot 0.200}{1.400} \right) \\[5px] &= 7.274\ \mathrm{kN/m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、常時においては、許容鉛直支持力度$q_a=300$である。

$$ \begin{equation} \begin{split} q_1=94.472 \leqq 300 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}}\\[5px] q_2=7.274 \leqq 300 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、支持に対しては安全である。

3-2. 地震時

3-2-1. 作用力の集計

照査にあたり、作用力を集計します。

自重と土圧について、上記のとおり鉛直力と水平力をそれぞれ算出しましたので、それぞれに作用位置を乗じて、モーメントを算出します。

鉛直力水平力作用位置モーメント
$V$$H$$x$$y$$M_x = V \cdot x$$M_y = H \cdot y$
(kN/m)(kN/m)(m)(m)(kN・m/m)(kN・m/m)
自重41.4008.2800.4960.81520.5476.747
土圧35.12636.2861.0670.66737.46624.190
合計76.52644.56658.01230.937

3-2-2. 転倒に対する照査

まず、許容偏心距離$e_a$を算出する。「1. 設計条件」で定めた「転倒に対する安定条件」より、次のとおり求められる。
$$ \begin{equation} \begin{split} e_a &= \frac{B}{3} \\[5px] &= \frac{1.400}{3}\\[5px] &= 0.467\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
次に「作用力の合力位置$d$」を求める。
作用力の合力位置は、底面つま先から合力の作用点までの水平距離であり、次のとおり求められる。(H24道擁p117)
$$ \begin{equation} \begin{split} d &= \frac{\Sigma M_x - \Sigma M_y}{\Sigma V} \\[5px] &= \frac{58.012 - 30.937}{76.526}\\[5px] &= 0.354\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
作用力の偏心距離$e$は、底面中心から作用力の合力位置まで距離であるため、次のとおり求められる。(H24道擁p118)
$$ \begin{equation} \begin{split} e &= \frac{B}{2} - d \\[5px] &= \frac{1.400}{2} - 0.354\\[5px] &= 0.346\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

以上より、作用力の偏心距離$e=0.346$、許容偏心距離$e_a=0.467$なので、

$$ \begin{equation} \begin{split} e=0.346 \leqq e_a \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、転倒に対しては安全である。

3-2-3. 滑動に対する照査

下式のとおり、滑動に対する抵抗力を滑動力で除して、安全率$F_s$を算出する。(H24道擁p113)

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s = \frac{\Sigma V \cdot \mu + c_B \cdot B'}{\Sigma H} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $B'$:荷重の偏心を考慮した擁壁底面の有効載荷幅(m)
    $$ \begin{equation} \begin{split} B'=B-2e=1.400-2 \times 0.346 = 0.708 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s &= \frac{\Sigma V \cdot \mu + c_B \cdot B'}{\Sigma H} \\[5px] &= \frac{76.526 \times 0.7 + 0 \times 0.708}{44.566}\\[5px] &= 1.202 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、地震時においては、滑動に対する許容安全率$F_{sa}=1.2$である。

$$ \begin{equation} \begin{split} F_s=1.202 \geqq 1.2 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、滑動に対しては安全である。

📌NOTE
  • 地震時の滑動に対する照査が、今回の設計例における擁壁形状を決定づける計算となります。
  • 許容安全率の値をギリギリで満足しているので、底面幅が少しでも短くなったり、背面勾配が少しでも急こう配になると、許容安全率を満足しなくなります。
  • また、支持地盤における「底面と地盤の摩擦係数$\mu=0.7$は、岩盤(軟岩)相当であるため、この値が小さくなる(例えば、砂質地盤になる)と、許容安全率を満足しなくなります。

3-2-4. 支持に対する照査

底面幅$B=1.400 \mathrm{m}$の中心から1/6の距離は、$1.400\times 1/6= 0.233 \mathrm{m}$である。 この値を2倍すると底面幅の1/3(ミドルサード)である。

作用力の偏心距離$e=0.346 \mathrm{m}$は、$0.233\mathrm{m}$より大きいため、作用力の合力位置は、底面幅中央の1/3(ミドルサード)内にない。

ただし、底面幅$B=1.400 \mathrm{m}$の中心から1/3の距離は、$1.400\times 1/3= 0.467 \mathrm{m}$である。

作用力の偏心距離$e=0.346 \mathrm{m}$は、$0.467\mathrm{m}$以下であるため、作用力の合力位置は、底面幅の2/3内である。

このとき、地盤反力は三角分布となり、その擁壁端部位置での地盤反力度$q_1$は下式で算出できる。(H24道擁p120)
$$ \begin{equation} \begin{split} q_1 &= \frac{2 \Sigma V}{3d} \\[5px] &= \frac{2 \times 76.526}{3 \times 0.354} \\[5px] &= 144.198\ \mathrm{kN/m^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

「1. 設計条件」で定めたとおり、地震時においては、許容鉛直支持力度$q_a=450$である。

$$ \begin{equation} \begin{split} q_1=144.198 \leqq 450 \ \ \bbox[2px, border: 2px solid]{\mathrm{OK}}\\[5px] \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、支持に対しては安全である。

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

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なお、重要度2の場合は下記の記事で計算例を紹介しています。

Excelで重力式擁壁(重要度2)の設計計算 -平面、ガードレールC種-

Excelで重力式擁壁(重要度2)の設計計算 -平面、ガードレールC種-

この記事では、道路に設定される「重力式擁壁(重要度2)」をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。