土木工事に用いられる仮設土留め壁「自立式鋼矢板」をエクセルで設計計算した結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

設計の考え方は、社団法人日本道路協会が平成11年3月に発行した道路土工仮設構造物工指針(以下、H11道仮という。)のp150~155に基づいています。

今回の紹介する設計プロセスは「掘削深さH=3.0m以下、砂質地盤の陸上施工」が適用範囲です。(H11道仮p28, 77)

下記の画像は、設計のフローチャートです。クリックすると別ウィンドウで開きます。

📌NOTE
  • 仮設土留の設計フローは、H11道仮p.27にも掲載されていますが、自立式鋼矢板に特化したフローを書いてみました。
  • また、これから解説する内容は、沖縄県のWebで公開されている「土木工事設計要領 第1編【共通編】(平成30年8月1日)」のp.2-91に記載の設計計算例を参考に、より詳細な設計計算例として作成したものとなっています。

1 設計条件

1-1 設計条件の設定

(1)掘削寸法・荷重・地下水位

  • 掘削深さ $H=3.0\ \mathrm{m}$
  • 掘削長さ(長辺) $L_e=8.0\ \mathrm{m}$
  • 掘削幅(短辺) $B_e=4.0\ \mathrm{m}$
  • 上載荷重 $q=10.0\ \mathrm{kN/m^2}$
  • 地表面から地下水位までの深さ $G.L.=-1.5\ \mathrm{m}$

(2)地盤物性値

地盤の各数値は上図のとおりですが、表にすると下記のとおりです。

層厚
$h$
(m)
土質

地下水

(m)
N値

単位体積重量 $\gamma$
(kN/m³)
水中単位重量 $\gamma \ ^\prime$
(kN/m³)
せん断抵抗角 $\phi$
(度)
粘着力
$c$
(kN/m²)
1層 0.50 砂質土 10 18 27 0
2層 1.00 砂質土 12 18 28 0
3層 1.00 砂質土 1.00 12 18 9 28 0
4層 0.50 砂質土 0.50 15 19 10 30 0
掘削$\sum$ 3.00 1.50
5層 1.00 砂質土 1.00 15 19 10 30 0
6層 10.00 砂質土 10.00 27 20 11 35 0
📌NOTE
  • 上記の表のうち、実際に計測するのは左の4つ「層厚」、「土質」、「地下水」、「N値」でしょう。
  • 土の単位体積重量$\gamma$は、H11道仮p.29より選定し、水中単位体積重量も同ページのとおり、9.0kN/m³を差し引いて求めています。
  • せん断抵抗角はN値からの換算式$\phi=\sqrt{15N}+15$で求めることができます。(H11道仮p.30)
  • 砂質土の粘着力は、無視しています。(H11道仮p.30)

(3)土留め壁頭部の許容変位量

土留め壁頭部の許容変位量は、掘削深さの「3%」とします。(H11道仮p.151)

よって、許容変位量$\delta_a =3.0\times0.03= 0.090 \ \mathrm{m}$

1-2 設計条件に基づく外力の計算

(1)掘削部の主働土圧

主働土圧は次の式で求めます。(H11道仮p.151)

$$ \begin{equation} \begin{split} p_a & =K_a\ \left(\sum\gamma\ h+q\right)-2c\sqrt{K_a}\\[5px] K_a & =\tan^2\left(45^\circ -\frac{\phi}{2}\right) \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $p_a$:自立式土留めに作用する土圧(kN/m²)
  • $K_a$:主働土圧係数
  • $\sum \gamma\ h$:着目点における地盤の有効土かぶり圧(kN/m²)
  • $\gamma$:各層の土の湿潤単位体積重量(kN/m³)
    • ただし、地下水位以下では水中単位体積重量 $\gamma\ ^\prime$ とする。
  • $h$:着目点までの各層の層厚(m)
  • $q$:地表面までの上載荷重(kN/m²)
  • $c$:土の粘着力(kN/m²)
  • $\phi$:土のせん断抵抗角(度)

以上をもとに、掘削部の各層の主働土圧を表計算すると次のとおり。

層厚
$h$
(m)
土質 主働土圧係数
$K_a$

$\gamma$
(kN/m³)
主働土圧
$p_a$
(kN/m²)
1層 0.50 砂質 0.376 18 $p_{a1上}=3.76$
$p_{a1下}=7.14$
2層 1.00 砂質 0.361 18 $p_{a2上}=6.86$
$p_{a2下}=13.36$
3層 1.00 砂質 0.361 9 $p_{a3上}=13.36$
$p_{a3下}=16.61$
4層 0.50 砂質 0.333 10 $p_{a4上}=15.32$
$p_{a4下}=16.98$
3.00

(2)掘削部の水圧

掘削部の各層の水圧は、深さに比例するので、下表のとおりとなります。

層厚
$h$
(m)
地下水

(m)
水圧
$p_w$
(kN/m²)
1層 0.50 $p_{w1上}=0.00$
$p_{w1下}=0.00$
2層 1.00 $p_{w2上}=0.00$
$p_{w2下}=0.00$
3層 1.00 1.00 $p_{w3上}=0.00$
$p_{w3下}=10.00$
4層 0.50 0.50 $p_{w4上}=10.00$
$p_{w4下}=15.00$
3.00

(3)側圧の合力、最大曲げモーメント

「側圧の合力」を求めるために、まず、各層の「主働土圧と水圧の合計」を計算します。

主働土圧
$p_a$
水圧
$p_w$
主働土圧+水圧
$p$
(kN/m²)
1層 3.76
7.14
0.00
0.00
$p_{1上}=3.76$
$p_{1下}=7.14$
2層 6.86
13.36
0.00
0.00
$p_{2上}=6.86$
$p_{2下}=13.36$
3層 13.36
16.61
0.00
10.00
$p_{3上}=13.36$
$p_{3下}=26.61$
4層 15.32
16.98
10.00
15.00
$p_{4上}=25.32$
$p_{4下}=31.98$

次に、各層を2つに分割し各三角形の面積「側圧」を求め、それらを合計すれば「側圧の合力」となります。

計算式 側圧
$P$
(kN)
1層
0.50×3.76 /2
0.50×7.14 /2
0.94
1.79
2層
1.00×6.86 /2
1.00×13.36 /2
3.43
6.68
3層
1.00×13.36 /2
1.00×26.61 /2
6.68
13.30
4層
0.50×25.32 /2
0.50×31.98 /2
6.33
8.00
47.14

つづいて、「最大曲げモーメント」を求めます。

まず、掘削底面から各三角形重心までの距離「アーム長」を算出します。下図の青字で示しています。

計算式 アーム長
$y$
(m)

0.50+1.00+1.00+0.50 /3 ×2
0.50+1.00+1.00+0.50 /3
2.83
2.67

0.50+1.00+1.00 /3 ×2
0.50+1.00+1.00 /3
2.17
1.83

0.50+1.00 /3 ×2
0.50+1.00 /3
1.17
0.83

0.50 /3 × 2
0.50 /3
0.33
0.17

次に、各三角形の「側圧」に、それぞれの「アーム長」をかけ算して「モーメント」を求め、それらを合計すれば「最大曲げモーメント」となります。

側圧
$P$
(kN)
アーム長
$y$
(m)
モーメント
$M=P \cdot y$
(kN・m)

0.94
1.79
2.83
2.67
2.66
4.76

3.43
6.68
2.17
1.83
7.43
12.24

6.68
13.30
1.17
0.83
7.79
11.09

6.33
8.00
0.33
0.17
2.11
1.33
47.14 49.42
  • 側圧の合力 $P= 47.14 \ \mathrm{kN}$
  • 土留め壁に発生する最大曲げモーメント $M= 49.42 \ \mathrm{kN \cdot m}$

合力の作用位置$h_0$は次の式で求めます。

$$ \begin{equation} \begin{split} h_0 &=\frac{M}{P} \ =\frac{49.42}{47.14}=1.05\ \mathrm{m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

1-3 鋼矢板の設定

設計条件として、鋼矢板の型式を「仮に」設定します。今回は、「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型 h=125」にします。

  • 型式:$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型
  • 断面二次モーメント $I= 16,800\ \mathrm{cm^4/m}$
  • 断面係数 $Z= 1,340\ \mathrm{cm^3/m}$
  • 鋼矢板の許容応力度 $\sigma_{sa}= 270\ \mathrm{N/mm^2}$(H11道仮p.48より)
  • ヤング係数 $E = 200,000\ \mathrm{N/mm^2}$(H11道仮p.46より)
  • 断面二次モーメントの有効率(根入れ長の計算): $100$%(H11道仮p.153)
  • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算): $45$%(H11道仮p.107)
  • 断面係数の有効率(応力度の計算): $60$%(H11道仮p.109)

後述する「根入れ長の計算」、「断面の計算」、「変位の計算」のいずれかで「NG」となった場合は、この設定を見直すことになります。(フローチャート参照)

H11道路土工仮設構造物工指針p.320には、鋼矢板の型式が記載されています。設計に必要なところだけ抜粋して表にすると次のとおりです。

W
(mm)
h
(mm)
t
(mm)
断面二次モーメント
(cm⁴/m)
断面係数
(cm³/m)
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型 400 100 10.5 8,740 874
$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型 400 125 13.0 16,800 1,340
400 130 13.0 17,400 1,340
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{V}$型 400 170 15.5 38,600 2,270
$\mathrm{V_L}$型 500 200 24,3 63,000 3,150

このうち、「$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型」と「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型のh=130」と「$\mathrm{V_L}$型」は、リース材として取り扱われていない地域があります。設計の際はその地域の実情にあわせて採用の可否を判断するべきでしょう。

📌NOTE
  • 鋼矢板の許容応力度については、H11道路土工仮設構造物工指針に掲載の値と、土木工事仮設計画ガイドブックに掲載の値とが異なっていますので、注意しましょう。
  • 有効率についての解説は、一般社団法人鋼管杭・鋼矢板技術協会の発行資料「[鋼矢板Q&A](http://www.jaspp.com/shiryou/techinice_date.html)」の「Q6.7 鋼矢板の継手効率とは?」が分かりやすいと思います。

2 根入れ長の計算(鋼矢板の長さの決定)

自立式土留めの根入れ長は、「最小根入れ長」、「掘削底面の安定から決定される根入れ長」、「式(2-13-3)により求められる根入れ長」のうちの最大のものとします。(H11道仮p.153)

2-1 最小根入れ長

鋼矢板なので、最小の根入れ長は「3.0m」とします。(H11道仮p.87)

$$ ℓ_{min}=3.0\ \mathrm{m} \nonumber $$

2-2 掘削底面の安定から決定される根入れ長

掘削底面の安定に必要な根入れ長は、地盤によって異なります。

砂質地盤は「ボイリングおよびパイピングの検討」をすることになります。(H11道仮p.76~82)

(1) ボイリングの検討

ボイリングに対する安全率$F_s$を満足するように根入れ長 を求めます。(H11道仮p.79)

$$ F_s = \frac{w}{u} \nonumber $$

ここに、

  • $F_s$:ボイリングに対する安全率 $F_s \geqq 1.2$
  • $w$:土の有効重量(kN/m²)
    • $w= \gamma \ ^\prime \cdot ℓ_d$
      • $\gamma \ ^\prime$:土の水中単位体積重量(kN/m³)
      • $ℓ_d$:土留め壁の根入れ長(m)

上図のとおり、$w$は5層と6層の有効重量を合計した値となります。このため $\gamma \ ^\prime$は、「掘削底面から根入れ下端までの範囲」における水中単位体積重量の平均値 $\bar{\gamma \ ^\prime}$としなければなりません

📌NOTE
  • $\bar{\gamma \ ^\prime}$を算出するためには、根入れ長$ℓ_d$が必要になってしまいます。
  • しかし、根入れ長$ℓ_d$はこの段階では決まっていません。
  • そこで、「$ℓ_d$の仮定値」を設定し$\bar{\gamma \ ^\prime}$を求め、後述のとおり 「$ℓ_d$の計算値」を算出します。この後、仮定値と計算値の差が「0」に収れんするまで、仮定値を見直して繰り返し計算(Excelのゴールシーク)して$ℓ_d$を決定します。

繰り返し計算した結果が下記の表です。

層厚
$h$
(m)
単位体積重量
$\gamma$
(kN/m³)
ボイリング検討用の
水中単位重量算出
のため差し引く値
水中単位重量
$\gamma \ ^\prime$
(kN/m³)

$h \cdot \gamma \ ^\prime$
(kN/m²)
5層 1.00 19 10.0 9.0 9.0
6層 0.28 20 10.0 10.0 2.8
$\sum$ 1.28 11.8

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \bar{\gamma \ ^\prime} &=\frac{\sum ( h \cdot \gamma \ ^\prime )}{\sum h} \ =\frac{11.8}{1.28} \ =9.2\ \mathrm{kN/m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
  • $u$:土留め壁先端位置に作用する平均過剰間隙水圧(kN/m²)
    • $\displaystyle u=\lambda\ \frac{1.57 \cdot \gamma_w \cdot h_w}{4}$
      • $\gamma_w$:水の単位体積重量(kN/m³) $\gamma_w=10.0\mathrm{kN/m^3}$
      • $h_w$:水位差(m)$h_w =1.5\mathrm{m}$
      • $\lambda$:土留めの形状に関する補正係数
        • $\lambda = \lambda_1 \cdot \lambda_2$
          • $\lambda_1$:掘削幅に関する補正係数
          • $\lambda_1 = 1.30 +$ $0.7 \ (B_e/ℓ_d)^{-0.45}$
            • $B_e$:掘削幅(m) $B_e=4.0\mathrm{m}$
            • ただし、$\lambda_1< 1.5$ のときは、$\lambda_1=1.5$ とする。
            • (前述のとおり の算出は、繰り返し計算(Excelならばゴールシーク)により求めます。)
          • よって、
          • $\lambda_1=1.30+$ $0.7\ (4.0/1.28)^{-0.45}$ $=1.72$
          • 以上より、
          • $\lambda_1=1.72$
          • $\lambda_2$:土留め平面形状に関する補正係数
          • $\lambda_2=0.95+0.09$ ${(L_e/B_e)+0.37}^{-2}$
            • $L_e$:掘削長さ(m) $L_e=8.0\ \mathrm{m}$
          • よって、
          • $\lambda_2= 0.95+0.09 \times$ ${(8.0/4.0)+0.37}^{-2}$ $=0.97$

よって、

$$ \begin{equation} F_s=\frac{w}{u} = \frac{\bar{\gamma \ ^\prime} \cdot ℓ_d \cdot 4}{\lambda_1 \cdot \lambda_2 \cdot 1.57 \cdot \gamma_w \cdot h_w}\nonumber \end{equation} $$

であるため、式を変形し、「$ℓ_d$の計算値」を求めます。

$$ \begin{equation} \begin{split} ℓ_d &=\frac{F_s \cdot \lambda_1 \cdot \lambda_2 \cdot 1.57 \cdot \gamma_w \cdot h_w}{\bar{\gamma \ ^\prime} \cdot 4} \\[5px] &=\frac{1.2 \cdot 1.70 \cdot 0.97 \cdot 1.57 \cdot 10.0 \cdot 1.5}{9.2\cdot 4}\\[5px] &=1.28\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
📌NOTE
  • ボイリングの検討において注意すべき点は、土の水中単位体積重量を計算するために差し引く値が「10.0kN/m³」となっていることです。(H11道仮)
  • 一方、先の「1-2. 設計条件に基づく外力の計算」の主働土圧を計算した際の差し引く値は「9.0kN/m³」です。

(2)パイピングの検討

浸透流路長と水位差の比を考慮した式を用いる。(H11道仮p.82)

$$ ℓ_h + ℓ_d \geqq 2 \cdot h_w \nonumber $$

ここに、

  • $ℓ_h$:背面側の浸透流路長(m)
  • ただし、背面地盤に礫層のような透水性の大きな地層がある場合はその層圧を$ℓ_d$から控除する。

陸上であるため、

$$ (ℓ_d + h_w) + ℓ_d \geqq 2 \cdot h_w \nonumber $$

変形すると、

$$ ℓ_d \geqq h_w/2 = 1.5/2 = 0.75 \ \mathrm{m} \nonumber $$

2-3 式(2-13-3)により求められる根入れ長

(1)根入れ長の計算

H11道仮p.153に記載の式(2-13-3)より下記の式で根入れ長を求めます。

$$ ℓ_0=\frac{2.5}{\beta_1} \nonumber $$

ここに、

  • $ℓ_0$:根入れ長(m)
  • $\beta_1$:杭の特性値(m-1
    • $\displaystyle \beta_1=\sqrt[4]{\frac{k_{H1} \cdot B}{4 \cdot E \cdot I}}$
      • $k_{H1}$:水平方向地盤反力係数(kN/m³) $k_{H1}=13,644\ \mathrm{kN/m^3}$ (計算方法は後述)
      • $B$:鋼矢板の単位幅(m) 鋼矢板の場合は、単位幅$B =1.0\ \mathrm{m}$
      • $E$:ヤング係数(kN/m²) $E =200,000,000\ \mathrm{kN/m^2}$
      • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m⁴)$I =0.00016800\ \mathrm{m^4}$
$$ \beta_1=\sqrt[4]{\frac{13,644 \cdot 1.0}{4 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800}}=0.560\ \mathrm{m^{-1}} \nonumber $$
📌NOTE
  • この$\beta_1$の算出には、水平方向地盤反力係数$k_{H1}$が必要です。ところが後述するとおり、$k_{H1}$の計算に$\beta_1$が必要となっています。
  • このため、「仮定値$\beta_1$」で$k_{H1}$を算出し、それを使って「計算値$\beta_1$」を求め、「仮定値-計算値」が「0」に収れんするまで仮定値を変化させる「繰り返し計算(Excelならばゴールシーク)」を行います。
  • なお、水平方向地盤反力係数の解説はこちらを参照「水平方向地盤反力係数

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} ℓ_0 &= \frac{2.5}{0.560}\ =4.46\mathrm{m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

(2)水平方向地盤反力係数kH1の計算

水平方向地盤反力係数$k_{H1}$は、まず、掘削底面から下に向かって距離「$1/\beta_1$の範囲」の各地層でそれぞれ計算します。そして、それらの平均値$\bar{k_{H1}}$を求めます。(H11道仮p.153,105)

各層の水平方向地盤反力係数は、下記の式で求めます。

$$ k_{H1}=\eta \cdot k_{H0} \left ( \frac{B_H}{0.3} \right )^{-3/4} \nonumber $$

ここに、

  • $\eta$:壁体形式に関わる係数(連続した壁体の場合、$\eta =1$)
  • $k_{H0}$:直径30㎝の剛体円板による平板載荷試験の値に相当する水平方向地盤反力係数(kN/m³)
    • $\displaystyle k_{H0}=\frac{1}{0.3}\cdot \alpha \cdot E_0$
      • $\alpha$:地盤反力係数の推定に用いる係数(標準貫入試験による場合、$\alpha =1$)
      • $E_0$:測定または推定した設計の対象とする位置での地盤の変形係数(kN/m²)
        • $E_0=2,800 \cdot N$
  • $B_H$:換算載荷幅(m)(連続壁の場合、$B_H=10\ \mathrm{m}$)

よって、掘削底面より下方向の距離「$1/\beta_1$の範囲」で、各層の値は表計算すると下記のとおり。

層厚 N値 $\alpha \cdot E_0$ $k_{H0}$ $k_{H1}$ $k_{H1} \cdot h$ (kN/m²)
5層 1.00 15 42,000 140,000 10,092 10,092
6層 0.79 27 75,600 252,000 18,165 14,273
$1/\beta_1=$ 1.79 $\sum$ 24,365

よって、水平方向地盤反力係数の平均値$\bar{k_{H1}}$は

$$ \begin{equation} \begin{split} \bar{k_{H1}} &= \frac{\sum(k_{H1} \cdot h)}{1/\beta_1}\\[5px] &= \frac{24,365}{1.79}\\[5px] &=13,644\ \mathrm{kN/m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

となります。

📌NOTE
  • 上記のとおり、水平方向地盤反力係数$k_{H1}$の算出には、$1/\beta_1$を決定する必要があります。
  • しかし、先に説明したとおり、$1/\beta_1$の算出に$k_{H1}$が必要であることから、繰り返し計算法(Excelならばゴールシーク)で$\beta_1$を計算することになります。
  • このため、電卓と紙で計算し、答えを導くことが事実上困難です。これが仮設工を難解にしている原因だと思います。

2-4 根入れ長の決定

自立式土留めの根入れ長は、それぞれの計算により求められる根入れ長のうち最大のものとする。

計算方法 計算結果
最小根入れ長 $ℓ_{min}=3.0$
掘削底面の安定から決定される根入れ長 $ℓ_d=1.28$ (ボイリング)
$ℓ_d=0.75$ (パイピング)
式(2-12-3)により求められる根入れ長 $ℓ_0=4.46$

よって、根入れ長$D=4.46\ \mathrm{m}$

2-5 鋼矢板の長さ

鋼矢板の長さは、「掘削深さ」に「根入れ長」を加え、0.5m単位で切り上げる。

$$ \begin{equation} \begin{split} L &= H+D\\[5px] &= 3.0+4.46\\[5px] &= 7.46\\[5px] &\fallingdotseq 7.5\ \mathrm{m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

ただし、リース材の標準保有長さ(H11道仮p.321)の範囲外、最小長さ未満の場合は、鋼矢板の型式を見直すこと。(保有長さは地域により異なる。)

型式$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型については、

  • 標準保有長さ 6.0~15.0m
  • 最小長さ 5.0m

であるため、L=7.5mはOK

3 断面の計算

3-1 最大曲げモーメント

(1)最大曲げモーメントの計算

土留め壁の断面計算に用いる曲げモーメントは、下式により計算します。(H11道仮p.154)

$$ \begin{equation} M_{max} =\frac{P}{2\cdot\beta_2} \sqrt{(1+2\cdot \beta_2\cdot h_0)^2 +1}\ \cdot \exp \left( -\tan^{-1}\frac{1}{1+2\cdot \beta_2 \cdot h_0} \right) \nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $M_{max}$:断面計算用の土留め壁に発生する最大曲げモーメント(kN・m)
  • $P$:側圧の合力(kN)$P =47.14\ \mathrm{kN}$
  • $h_0$:掘削平面から合力の作用位置までの高さ(m) $h_0 =1.05\ \mathrm{m}$
  • $\beta_2$:杭の特性値(m-1
    • $\displaystyle \beta_2=\sqrt[4]{\frac{k_{H2} \cdot B}{4 \cdot E \cdot I}}$
      • $k_{H2}$:水平方向地盤反力係数(kN/m³)$k_{H2}=12,700\ \mathrm{kN/m^3}$
        • $B$:鋼矢板の単位幅(m) 鋼矢板の場合は、単位幅$B =1.0\ \mathrm{m}$
        • $E$:ヤング係数(kN/m²) $E =200,000,000\ \mathrm{kN/m^2}$
        • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m⁴)$I =0.00016800\ \mathrm{m^4}$
        • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算)$45$%
$$ \beta_2=\sqrt[4]{\frac{12,700 \cdot 1.0}{4 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45}}=0.677\ \mathrm{m^{-1}} \nonumber $$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} M_{max} &=\frac{47.14}{2\,\cdot 0.677} \sqrt{(1+2\,\cdot 0.677\, \cdot 1.05)^2 +1}\; \exp \left( -\tan^{-1}\frac{1}{1+2\,\cdot 0.677\, \cdot 1.05} \right)\\[5px] &= 61.595\,\mathrm{kN \cdot m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

(2)水平方向地盤反力係数kH2の計算

水平方向地盤反力係数$k_{H2}$は、まず、掘削底面から下に向かって距離「$1/\beta_2$の範囲」の各地層でそれぞれ計算します。そして、それらの平均値$\bar{k_{H2}}$を求めます。(H11道仮p.153,105)

各層の水平方向地盤反力係数は、下記の式で求めます。

$$ k_{H2}=\eta \cdot k_{H0} \left ( \frac{B_H}{0.3} \right )^{-3/4} \nonumber $$

ここに、

  • $\eta$:壁体形式に関わる係数(連続した壁体の場合、$\eta =1$)
  • $k_{H0}$:直径30㎝の剛体円板による平板載荷試験の値に相当する水平方向地盤反力係数(kN/m³)
    • $\displaystyle k_{H0}=\frac{1}{0.3}\cdot \alpha \cdot E_0$
      • $\alpha$:地盤反力係数の推定に用いる係数(標準貫入試験による場合、$\alpha =1$)
      • $E_0$:測定または推定した設計の対象とする位置での地盤の変形係数(kN/m²)
        • $E_0=2,800 \cdot N$
  • $B_H$:換算載荷幅(m)(連続壁の場合、$B_H=10\ \mathrm{m}$)

よって、掘削底面より下方向の距離「$1/\beta_2$の範囲」で、各層の値は表計算すると下記のとおり。

層厚 N値 $\alpha \cdot E_0$ $k_{H0}$ $k_{H2}$ $k_{H2} \cdot h$ (kN/m²)
5層 1.00 15 42,000 140,000 10,092 10,092
6層 0.48 27 75,600 252,000 18,165 8,667
$1/\beta_2=$ 1.48 $\sum$ 18,759

よって、水平方向地盤反力係数の平均値$\bar{k_{H2}}$は

$$ \begin{equation} \begin{split} \bar{k_{H2}} &= \frac{\sum(k_{H2} \cdot h)}{1/\beta_2}\\[5px] &= \frac{18,759}{1.48}\\[5px] &=12,700\,\mathrm{kN/m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

となります。

📌NOTE
  • この計算で混乱しやすいことは、「1-2. 設計条件に基づく外力の計算」で求めた$M$が「土留め壁にかかる最大曲げモーメント」だったのに対して、上記の$M_{max}$が「土留め壁の断面計算に用いる最大曲げモーメント」であることです。
  • また、「$\beta_2$杭の特性値」および「$k_{H2}$水平方向地盤反力係数」の計算プロセスは、「2-3. 式(2-13-3)により求められる根入れ長」での$\beta_1$および$k_{H1}$の計算プロセスと同じですが、「1-3. 鋼矢板の設定」で示した「断面二次モーメントの有効率」だけが異なっている点に注意が必要です。

3-2 曲げ応力度の照査

鋼矢板に発生する最大曲げ応力度$\sigma_{max}$が、「1-3. 鋼矢板の設定」で決めた許容応力度$\sigma_{sa}$以下であれば「OK」と判定し、「4. 変位の計算」に進みます。

許容応力度を超えた場合は「NG」と判定し、「1-3. 鋼矢板の設定」に戻り、鋼矢板の型式を変えることになります。

鋼矢板に発生する最大曲げ応力度は、次の式で計算します。

$$ \sigma_{max}=\frac{M_{max}}{Z \cdot e} \nonumber $$

ここに

  • $\sigma_{max}$:鋼矢板に発生する最大曲げ応力度(N/mm2
  • $Z$:断面係数(m3/m) $Z=1,340 \ \mathrm{cm^3/m}$ $=0.0013400 \ \mathrm{m^3/m}$
  • $e$:断面係数の有効率(応力度の計算)$e=60$%

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma &=\frac{61.595}{0.0013400 \cdot 0.6}\\[5px] &= 76,611\,\mathrm{kN/m^2}\\[5px] &= 76.6\ \mathrm{N/mm^2} \ \leqq \sigma_{sa}=270.0\ \mathrm{N/mm^2}\ \mathrm{OK} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4 変位の計算

自立式土留め壁頭部の変位量は3つの変位量を足し合わせて求めます。

4-1 掘削底面での変位量

掘削底面での変位量は、下式で求めます。(H11道仮p154)

$$ \delta_1 = \frac{(1+\beta_2 \cdot h_0)}{2 \cdot E \cdot I \cdot \beta_2 \ ^3}P \nonumber $$

ここに、

  • $\beta_2$:杭の特性値(mー1) $\beta_2=0.677$
  • $h_0$:掘削平面から合力の作用位置までの高さ(m) $h_0=1.05 \ \mathrm{m}$
  • $E$:ヤング係数(kN/m2) $E=200,000,000 \ \mathrm{kN/m^2}$
  • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m4) $I=0.00016800 \ \mathrm{m^4}$
  • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算)$45$%
  • $P$:側圧の合力(kN) $P=47.14 \ \mathrm{kN}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_1 &=\frac{(1+0.677 \cdot 1.05)}{2 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45 \cdot 0.677 \ ^3} \cdot 47.14\\[5px] &= 0.0086\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4-2 掘削底面でのたわみ角による変位量

掘削底面でのたわみ角による変位量は、下式で求めます。(H11道仮p155)

$$ \delta_2 = \frac{(1+2 \cdot \beta_2 \cdot h_0)}{2 \cdot E \cdot I \cdot \beta_2 \ ^2}P \cdot H \nonumber $$

ここに、

  • $H$:掘削深さ(m) $H=3.00$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_2 &=\frac{(1+2 \cdot 0.677 \cdot 1.05)}{2 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45 \cdot 0.677 \ ^2} \cdot 47.14 \cdot 3.00\\[5px] &= 0.0247\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4-3 掘削底面以上の片持ちばりのたわみ

掘削底面以上のたわみは、下式で求めます。(H11道仮p155)

$$ \delta_3 = \frac{p_2\ ^\prime \cdot H^4}{30 \cdot E \cdot I} \nonumber $$

ここに、

  • $p_2 \ ^\prime$:モーメントを等価とする三角形分布荷重の掘削底面での荷重強度(kN/m)
    • $\displaystyle p_2 \ ^\prime = \frac{6 \cdot \sum M}{H^2}$
      • $\sum M$:土留め壁に発生する最大曲げモーメント(kN・m) $\sum M = 49.42$
    • よって、
    • $\displaystyle p_2 \ ^\prime = \frac{6 \cdot 49.42}{3.00^2} \ =32.95\ \mathrm{kN/m}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_3 &= \frac{32.95 \cdot 3.00^4}{30 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45}\\[5px] &= 0.0059\ \mathrm{m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

4-4 変位量の照査

上記の変位量3つの合計が、「1-1. 設計条件の設定」で決めた許容変位量$\delta_a$以下であれば「OK」と判定し、終了します。

許容変位量を超えた場合は「NG」と判定し、「1-3. 鋼矢板の設定」に戻って鋼矢板の型式を変えます。

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta &= \delta_1 +\delta_2 +\delta_3\\[5px] &= 0.0086 + 0.0247 + 0.0059\\[5px] &= 0.039\,\mathrm{m} \ \leqq \ \delta_a = 0.090\,\mathrm{m}\ \mathrm{OK} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

これで設計終了です。

結果は、「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型」の鋼矢板で、長さ「7.5m(根入れ長4.46m)」となりました。

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

DOWNLOAD

シートに保護をかけていますが、パスワードは設定していません。

分かりにくかったり、間違いを見つけられた場合は、ご連絡いただけると幸いです。