この記事では、河川工事に用いられる仮締切工「自立式鋼矢板」をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

これから解説する内容は、中部地方整備局のWebで公開されている「河川構造物設計要領(令和4年12月)」の第 4 編 参考資料に記載されている「1-4 自立式鋼矢板(仮設)計算例」に従い、社団法人日本道路協会が平成11年3月に発行した道路土工仮設構造物工指針(以下、H11道仮という。)のp150~155に基づいています。

ただし、中部地方整備局の計算例とは条件を変えた設計計算例となっています。(根入れ付近の地盤を粘性土に変えるなど)

今回の紹介する設計プロセスは「水面から掘削底面までの深さH=3.0m以下、砂質および粘性土地盤の河川内施工」が適用範囲です。(H11道仮p28, 77)

下記の画像は、設計のフローチャートです。クリックすると別ウィンドウで開きます。

1. 設計条件

1-1. 設計条件の設定

掘削寸法・荷重・地下水位

  • 水深 $H_w=1.5\ \mathrm{m}$
  • 掘削深さ $H=1.5\ \mathrm{m}$
  • 上載荷重 $q=0.0\ \mathrm{kN/m^2}$

地盤物性値

地盤の各数値は上図のとおりですが、表にすると下記のとおりです。

層厚
$h$
(m)
土質

(m)
N値 単位体積重量
$\gamma$
(kN/m3)
水中単位重量
$\gamma\ ^\prime$
(kN/m3)
せん断抵抗角
$\phi$
(度)
粘着力
$c$
(kN/m2)
1層 1.50 1.50
2層 0.50 砂質土 0.50 17 20 11 31 0
3層 0.50 砂質土 0.50 10 18 9 27 0
4層 0.50 粘性土 0.20 5 14 5 0 30
掘削 $\sum$ 1.50 3.00
5層 1.00 粘性土 1.00 5 14 5 0 30
6層 10.00 砂質土 10.00 3 14 5 0 20
📌NOTE
  • 上記の表のうち、実際に計測するのは左の4つ「層厚」、「土質」、「水」、「N値」でしょう。
  • 土の単位体積重量$\gamma$は、H11道仮p.29より選定し、水中単位体積重量も同ページのとおり、9.0kN/m3を差し引いて求めています。
  • せん断抵抗角はN値からの換算式$\phi=\sqrt{15N}+15$で求めることができます。(H11道仮p.30)
  • 砂質土の粘着力は無視し、粘性土の粘着力はN値から推定しています。(H11道仮p.30)

土留め壁頭部の許容変位量

土留め壁頭部の許容変位量は、水面から掘削底面までの深さの「3%」とします。(H11道仮p.151)

よって、許容変位量$\delta_a =3.0\times0.03=\textcolor{red}{0.090}\ \mathrm{m}$

1-2. 設計条件に基づく外力の計算

掘削部の主働土圧

主働土圧は次の式で求めます。(H11道仮p.151)

$$ \begin{align} p_a & =K_a\ \left(\sum\gamma\ h+q\right)-2c\sqrt{K_a}\label{pa} \nonumber \\[5px] K_a & =\tan^2\left(45^\circ \ - \ \frac{\phi}{2}\right)\label{ka}\nonumber \end{align} $$

ここに、

  • $p_a$:自立式土留めに作用する土圧(kN/m2
  • $K_a$:主働土圧係数
  • $\sum \gamma\ h$:着目点における地盤の有効土かぶり圧(kN/m2
  • $\gamma$:各層の土の湿潤単位体積重量(kN/m3
    • ただし、水位以下では水中単位体積重量$\gamma\ ^\prime$とする。
  • $h$:着目点までの各層の層厚(m)
  • $q$:水面の上載荷重(kN/m2
  • $c$:土の粘着力(kN/m2
  • $\phi$:土のせん断抵抗角(度)

以上をもとに、掘削部の各層の主働土圧を表計算すると次のとおり。

層厚
$h$
(m)
土質 主働土圧係数
$K_a$

$\gamma$
(kN/m3)
最小土圧
$0.3\gamma \ h$
(kN/m2)
主働土圧
$p_a$
(kN/m2)
1層 1.50
0 0.00
0.00
$p_{a1上}=$ 0.00
$p_{a1下}=$ 0.00
2層 0.50 砂質 0.320 11 0.00
1.65
$p_{a2上}=$ 0.00
$p_{a2下}=$ 1.76
3層 0.50 砂質 0.376 9 1.65
3.00
$p_{a3上}=$ 2.07
$p_{a3下}=$ 3.76
4層 0.50 粘性 1 5 3.00
3.75
$p_{a4上}=$ 3.00
$p_{a4下}=$ 3.75
3.00
📌NOTE
  • 表の右から2列目の最小土圧は、粘性土地盤の場合にのみ必要となります。(H11道仮p.152)
  • 粘性土である4層について、主働土圧係数を用いて主働土圧を計算すると負の値になりますので、最小土圧の値を採用することになります。

掘削部の水圧

掘削部の各層の水圧は、深さに比例するので、下表のとおりとなります。

層厚
$h$
(m)


(m)
水圧
$p_w$
(kN/m2)
1層 1.50 1.50 $p_{w1上}=$ 0.00
$p_{w1下}=$ 15.00
2層 0.50 0.50 $p_{w2上}=$ 15.00
$p_{w2下}=$ 20.00
3層 0.50 0.50 $p_{w3上}=$ 20.00
$p_{w3下}=$ 25.00
4層 0.50 0.50 $p_{w4上}=$ 25.00
$p_{w4下}=$ 30.00
3.00

側圧の合力、最大曲げモーメント

「側圧の合力」を求めるために、まず、各層の「主働土圧と水圧の合計」を計算します。

主働土圧
$p_a$
水圧
$p_w$
主働土圧+水圧
$p$
(kN/m2)
1層 0.00
0.00
0.00
15.00
$p_{1上}=0.00$
$p_{1下}=15.00$
2層 0.00
1.76
15.00
20.00
$p_{2上}=15.00$
$p_{2下}=21.76$
3層 2.07
3.76
20.00
25.00
$p_{3上}=22.07$
$p_{3下}=28.76$
4層 3.00
3.75
25.00
30.00
$p_{4上}=28.00$
$p_{4下}=33.75$

次に、各層を2つに分割し各三角形の面積「側圧」を求め、それらを合計すれば「側圧の合力」となります。

計算式 側圧
$P$
(kN)
1層 1.50×15.00 /2 11.25
2層
0.50×15.00 /2
0.50×21.76 /2
3.75
5.44
3層
0.50×22.07 /2
0.50×28.76 /2
5.52
7.19
4層
0.50×28.00 /2
0.50×33.75 /2
7.00
8.44

つづいて、「最大曲げモーメント」を求めます。

まず、掘削底面から各三角形重心までの距離「アーム長」を算出します。下図の青字で示しています。

計算式 アーム長
$y$
(m)
0.50+0.50+0.50+1.50 /3 2.00

0.50+0.50+0.50 /3 ×2
0.50+0.50+0.50 /3
1.33
1.17

0.50+0.50 /3 ×2
0.50+0.50 /3
0.83
0.67

0.50 /3 × 2
0.50 /3
0.33
0.17

次に、各三角形の「側圧」に、それぞれの「アーム長」をかけ算して「モーメント」を求め、それらを合計すれば「最大曲げモーメント」となります。

側圧
$P$
(kN)
アーム長
$y$
(m)
モーメント
$M=P \cdot y$
(kN・m)
11.25 2.00 22.50

3.75
5.44
1.33
1.17
5.00
6.35

5.52
7.19
0.83
0.67
4.60
4.79

7.00
8.44
0.33
0.17
2.33
1.41
48.58 46.98
  • 側圧の合力 $P= \textcolor{red}{48.58} \ \mathrm{kN}$
  • 土留め壁に発生する最大曲げモーメント $M= \textcolor{red}{46.98} \ \mathrm{kN \cdot m}$

合力の作用位置$h_0$は次の式で求めます。

$$ \begin{equation} \begin{split} h_0 &=\frac{M}{P} \ =\frac{46.98}{48.58}\ =\textcolor{red}{0.97}\ \mathrm{m} \end{split}\label{h0}\nonumber \end{equation} $$

1-3. 鋼矢板の設定

設計条件として、鋼矢板の型式を「仮に」設定します。今回は、「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型 h=125」にします。

  • 型式:$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型
  • 断面二次モーメント:$I= \textcolor{red}{16,800}\ \mathrm{cm^4/m}$
  • 断面係数 :$Z= \textcolor{red}{1,340}\ \mathrm{cm^3/m}$
  • 鋼矢板の許容応力度:$\sigma_{sa}= \textcolor{red}{270}\ \mathrm{N/mm^2}$ (H11道仮p.48より)
  • ヤング係数 :$E = \textcolor{red}{200,000}\ \mathrm{N/mm^2}$ (H11道仮p.46より)
  • 断面二次モーメントの有効率(根入れ長の計算):$\textcolor{red}{100\%}$ (H11道仮p.153)
  • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算):$\textcolor{red}{45\%}$ (H11道仮p.107)
  • 断面係数の有効率(応力度の計算):$\textcolor{red}{60\%}$ (H11道仮p.109)

後述する「根入れ長の計算」、「断面の計算」、「変位の計算」のいずれかで「NG」となった場合は、この設定を見直すことになります。(フローチャート参照)

H11道路土工仮設構造物工指針p.320には、鋼矢板の型式が記載されています。設計に必要なところだけ抜粋して表にすると次のとおりです。

W
(mm)
h
(mm)
t
(mm)
断面二次モーメント
(cm4/m)
断面係数
(cm3/m)
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型 400 100 10.5 8,740 874
$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型 400 125 13.0 16,800 1,340
400 130 13.0 17,400 1,340
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{V}$型 400 170 15.5 38,600 2,270
$\mathrm{V_L}$型 500 200 24,3 63,000 3,150

このうち、「$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型」と「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型のh=130」と「$\mathrm{V_L}$型」は、リース材として取り扱われていない地域があります。設計の際はその地域の実情にあわせて採用の可否を判断するべきでしょう。

📌NOTE
  • 鋼矢板の許容応力度については、H11道路土工仮設構造物工指針に掲載の値と、土木工事仮設計画ガイドブックに掲載の値とが異なっていますので、注意しましょう。
  • 有効率についての解説は、一般社団法人鋼管杭・鋼矢板技術協会の発行資料「鋼矢板Q&A」の「Q6.7 鋼矢板の継手効率とは?」が分かりやすいと思います。

2. 根入れ長の計算(鋼矢板の長さの決定)

自立式土留めの根入れ長は、「最小根入れ長」、「掘削底面の安定から決定される根入れ長」、「式(2-13-3)により求められる根入れ長」のうちの最大のものとします。(H11道仮p.153)

2-1. 最小根入れ長

鋼矢板なので、最小の根入れ長は「3.0m」とします。(H11道仮p.150)

$$ ℓ_{min}=\textcolor{red}{3.0}\ \mathrm{m} \nonumber $$

2-2. 掘削底面の安定から決定される根入れ長

掘削底面の安定に必要な根入れ長は、地盤によって異なります。

厚い粘性土地盤は「ヒービングの検討」をすることになります。(H11道仮p.76~82)

(1) ヒービングの検討

下式を満足できない場合は、ヒービングの検討を行う。(H11道仮p.83)

$$ N_b = \frac{\gamma \ H}{c} < 3.14 \nonumber $$

ここに、

  • $N_b$:安定数
  • $\gamma$:土の湿潤単位体積重量(kN/m3
  • $H$:掘削深さ(m)
  • $c$:掘削底面付近の地盤の粘着力(kN/m2) $c =\textcolor{red}{30.0}\ \mathrm{kN/m^2}$

ここでの右辺は、掘削背面に係る鉛直荷重を示している。

このため、今回の設計例では、水による鉛直荷重を加算する。

層厚
$h$
(m)
単位体積重量
$\gamma$
(kN/m3)
水中単位重量算
出のため差し引く値
水中単位重量
$\gamma \ ^\prime$
(kN/m3)
水の単位重量
$\gamma_w$
(kN/m3)

$(\gamma' + \gamma_w) \cdot h$
(kN/m2)
1層 1.50 0 0 10.0 15.0
2層 0.50 20 -9.0 11.0 10.0 10.5
3層 0.50 18 -9.0 9.0 10.0 9.5
4層 0.50 14 -9.0 5.0 10.0 7.5
$\sum$ 42.5

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} N_b &=\frac{\gamma \ H}{c}\\[5px] &=\frac{(\gamma' + \gamma_w) \cdot h}{c}\\[5px] &=\frac{42.5}{30.0}\\[5px] &=\textcolor{red}{1.42}\ < \ 3.14 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

よって、ヒービングの検討を省略する。

📌NOTE
  • H11道仮p.85には、ヒービング防止の対策工として、「土留め壁の根入れと剛性を増す方法」、「掘削面側の地盤改良」、「背面側土砂の除去」が記載されています。
  • 安全率を下回った場合の根入れ長を伸ばすことはあまり採用されず、H11道仮p.22にも記載のあるとおり地盤改良である「深層混合処理工法」と「生石灰杭工法」の採用例が多いようです。

2-3. 式(2-13-3)により求められる根入れ長

根入れ長の計算

H11道仮p.153に記載の式(2-13-3)より下記の式で根入れ長を求めます。

$$ ℓ_0=\frac{2.5}{\beta_1} \nonumber $$

ここに、

  • $ℓ_0$:根入れ長(m)
  • $\beta_1$:杭の特性値(m-1
    • $\displaystyle \beta_1=\sqrt[4]{\frac{k_{H1} \cdot B}{4 \cdot E \cdot I}}$
      • $k_{H1}$:水平方向地盤反力係数(kN/m3)  $k_{H1}=\textcolor{red}{2,516}\ \mathrm{kN/m^3}$  (計算方法は後述)
      • $B$:鋼矢板の単位幅(m) 鋼矢板の場合は、単位幅 $B =\textcolor{red}{1.0}\ \mathrm{m}$
      • $E$:ヤング係数(kN/m2)  $E =\textcolor{red}{200,000,000}\ \mathrm{kN/m^2}$
      • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m4) $I =\textcolor{red}{0.00016800}\ \mathrm{m^4}$
    • $\displaystyle \beta_1=\sqrt[4]{\frac{2,516 \cdot 1.0}{4 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800}}=\textcolor{red}{0.370}\ \mathrm{m^{-1}}$
📌NOTE
  • この$\beta_1$の算出には、水平方向地盤反力係数$k_{H1}$が必要です。ところが後述するとおり、$k_{H1}$の計算に$\beta_1$が必要となっています。
  • このため、「仮定値$\beta_1$」で$k_{H1}$を算出し、それを使って「計算値$\beta_1$」を求め、「仮定値-計算値」が「0」に収れんするまで仮定値を変化させる「繰り返し計算(Excelならばゴールシーク)」を行います。

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} ℓ_0 &= \frac{2.5}{0.370} \ =\textcolor{red}{6.76}\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

水平方向地盤反力係数kH1の計算

水平方向地盤反力係数$k_{H1}$は、まず、掘削底面から下に向かって距離「$1/\beta_1$の範囲」の各地層でそれぞれ計算します。そして、それらの平均値$\bar{k_{H1}}$を求めます。(H11道仮p.153,105)

各層の水平方向地盤反力係数は、下記の式で求めます。

$$ k_{H1}=\eta \cdot k_{H0} \left ( \frac{B_H}{0.3} \right )^{-3/4} \nonumber $$

ここに、

  • $\eta$:壁体形式に関わる係数(連続した壁体の場合、 $\eta =\textcolor{red}{1}$)
  • $k_{H0}$:直径30㎝の剛体円板による平板載荷試験の値に相当する水平方向地盤反力係数(kN/m3
    • $\displaystyle k_{H0}=\frac{1}{0.3}\cdot \alpha \cdot E_0$
      • $\alpha$:地盤反力係数の推定に用いる係数(標準貫入試験による場合、$\alpha =\textcolor{red}{1}$)
      • $E_0$:測定または推定した設計の対象とする位置での地盤の変形係数(kN/m2
        • $E_0=2,800 \cdot N$
  • $B_H$:換算載荷幅(m)(連続壁の場合、 $B_H=\textcolor{red}{10}\ \mathrm{m}$)
📌NOTE
  • 参考にした中部地方整備局Webで公開されている「河川構造物設計要領(令和4年12月)」の第 4 編 参考資料に記載されている「1-4 自立式鋼矢板(仮設)計算例」のp.4-1-19には、“$\alpha$は地震時の場合を用い「2.0」とする” となっています。
  • 今回の設計例では、H11道仮p.106に従い「1」を採用しています。
  • なお、$\alpha$の値を「1」にすると、根入れをする必要があり、かつ変位量も大きくなります。結果的に、鋼矢板の型式をより高規格にしなければいけません。
  • このため、今回の設計例では、型式を「河川構造物設計要領(令和4年12月)」で採用している$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型ではなく、ではなく、$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型にしています。

よって、掘削底面より下方向の距離「$1/\beta_1$の範囲」で、各層の値は表計算すると下記のとおり。

層厚 N値 $\alpha \cdot E_0$ $k_{H0}$ $k_{H1}$ $k_{H1} \cdot h$
(kN/m2)
5層 1.00 5 14,000 46,667 3,364 3,364
6層 1.70 3 8,400 28,000 2,018 3,437
$1/\beta_1=$ 2.70 $\sum$ 6,801

よって、水平方向地盤反力係数の平均値$\bar{k_{H1}}$は

$$ \begin{equation} \begin{split} \bar{k_{H1}} &= \frac{\sum(k_{H1} \cdot h)}{1/\beta_1}\\[5px] &= \frac{6,801}{2.70}\\[5px] &=\textcolor{red}{2,516}\ \mathrm{kN/m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

となります。

📌NOTE
  • 上記のとおり、水平方向地盤反力係数$k_{H1}$の算出には、$1/\beta_1$を決定する必要があります。
  • しかし、先に説明したとおり、$\beta_1$の算出に$k_{H1}$が必要であることから、繰り返し計算法(Excelならばゴールシーク)で$\beta_1$を計算することになります。
  • このため、電卓と紙で計算し、答えを導くことが事実上困難です。これが仮設工を難解にしている原因だと思います。

2-4. 根入れ長の決定

自立式土留めの根入れ長は、それぞれの計算により求められる根入れ長のうち最大のものとする。

最小根入れ長 $ℓ_{min}=3.0$
掘削底面の安定から決定される根入れ長 - (ヒービング)
式(2-12-3)により求められる根入れ長 $ℓ_0=6.76$

よって、根入れ長$D=\textcolor{red}{6.76}\ \mathrm{m}$

2-5. 鋼矢板の長さ

鋼矢板の長さは、「水深」、「掘削深さ」に「根入れ長」を加え、0.5m単位で切り上げる。

$$ \begin{equation} \begin{split} L &= H_w+H+D\\[5px] &= 1.5+1.5+6.76\\[5px] &= 9.76\\[5px] &\fallingdotseq \textcolor{red}{10.0}\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ただし、リース材の標準保有長さ(H11道仮p.321)の範囲外、最小長さ未満の場合は、鋼矢板の型式を見直すこと。(保有長さは地域により異なる。)

型式$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型については、

  • 標準保有長さ 6.0~15.0m
  • 最小長さ 5.0m

であるため、L=10.0mはOK

3. 断面の計算

3-1. 最大曲げモーメント

土留め壁の断面計算に用いる曲げモーメントは、下式により計算します。(H11道仮p.154)

$$ \begin{equation} M_{max} =\frac{P}{2\cdot\beta_2} \sqrt{(1+2\cdot \beta_2\cdot h_0)^2 +1}\; \exp \left( -\tan^{-1}\frac{1}{1+2\cdot \beta_2 \cdot h_0} \right)\nonumber \end{equation} $$

ここに、

  • $M_{max}$:断面計算用の土留め壁に発生する最大曲げモーメント(kN・m)
  • $P$:側圧の合力(kN)  $P =\textcolor{red}{48.58}\ \mathrm{kN}$
  • $h_0$:掘削平面から合力の作用位置までの高さ(m)  $h_0 =\textcolor{red}{0.97}\ \mathrm{m}$
  • $\beta_2$:杭の特性値(m-1
    • $\displaystyle \beta_2=\sqrt[4]{\frac{k_{H2} \cdot B}{4 \cdot E \cdot I}}$
      • $k_{H2}$:水平方向地盤反力係数(kN/m3)  $k_{H2}=\textcolor{red}{2,633}\ \mathrm{kN/m^3}$
      • $B$:鋼矢板の単位幅(m) 鋼矢板の場合は、単位幅$B =\textcolor{red}{1.0}\ \mathrm{m}$
      • $E$:ヤング係数(kN/m2)  $E =\textcolor{red}{200,000,000}\ \mathrm{kN/m^2}$
      • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m4) $I =\textcolor{red}{0.00016800}\ \mathrm{m^4}$
      • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算) $\textcolor{red}{45\ \mathrm{\%}}$
    • $\displaystyle \beta_2=\sqrt[4]{\frac{2,633 \cdot 1.0}{4 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45}}=\textcolor{red}{0.457}\ \mathrm{m^{-1}}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} M_{max} &=\frac{48.58}{2\ \cdot 0.457} \sqrt{(1+2\ \cdot 0.457\ \cdot 0.97)^2 +1}\; \exp \left( -\tan^{-1}\frac{1}{1+2\ \cdot 0.457\ \cdot 0.97} \right)\\[5px] &= \textcolor{red}{69.604}\ \mathrm{kN \cdot m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

水平方向地盤反力係数kH2の計算

水平方向地盤反力係数$k_{H2}$は、まず、掘削底面から下に向かって距離「$1/\beta_2$の範囲」の各地層でそれぞれ計算します。そして、それらの平均値$\bar{k_{H2}}$を求めます。(H11道仮p.153,105)

各層の水平方向地盤反力係数は、下記の式で求めます。

$$ k_{H2}=\eta \cdot k_{H0} \left ( \frac{B_H}{0.3} \right )^{-3/4} \nonumber $$

ここに、

  • $\eta$:壁体形式に関わる係数(連続した壁体の場合、 $\eta =\textcolor{red}{1}$ )
  • $k_{H0}$:直径30㎝の剛体円板による平板載荷試験の値に相当する水平方向地盤反力係数(kN/m3
    • $\displaystyle k_{H0}=\frac{1}{0.3}\cdot \alpha \cdot E_0$
      • $\alpha$:地盤反力係数の推定に用いる係数(標準貫入試験による場合、$\alpha =\textcolor{red}{1}$)
      • $E_0$:測定または推定した設計の対象とする位置での地盤の変形係数(kN/m2
        • $E_0=2,800 \cdot N$
  • $B_H$:換算載荷幅(m)(連続壁の場合、$B_H=\textcolor{red}{10}\ \mathrm{m}$)

よって、掘削底面より下方向の距離「$1/\beta_2$の範囲」で、各層の値は表計算すると下記のとおり。

層厚 N値 $\alpha \cdot E_0$ $k_{H0}$ $k_{H2}$ $k_{H2} \cdot h$
(kN/m2)
5層 1.00 5 14,000 46,667 3,364 3,364
6層 1.19 3 8,400 28,000 2,018 2,400
$1/\beta_2=$ 2.19 $\sum$ 5,764

よって、水平方向地盤反力係数の平均値$\bar{k_{H2}}$は

$$ \begin{equation} \begin{split} \bar{k_{H2}} &= \frac{\sum(k_{H2} \cdot h)}{1/\beta_2}\\[5px] &= \frac{5,764}{2.19}\\[5px] &=\textcolor{red}{2,633}\ \mathrm{kN/m^3} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

となります。

📌NOTE
  • この計算で混乱しやすいことは、「1-2. 設計条件に基づく外力の計算」で求めた$M$が「土留め壁にかかる最大曲げモーメント」だったのに対して、上記の$M_{max}$が「土留め壁の断面計算に用いる最大曲げモーメント」であることです。
  • また、「$\beta_2$杭の特性値」および「$k_{H2}$水平方向地盤反力係数」の計算プロセスは、「2-3. 式(2-13-3)により求められる根入れ長」での$\beta_1$および$k_{H1}$の計算プロセスと同じですが、「1-3. 鋼矢板の設定」で示した「断面二次モーメントの有効率」だけが異なっている点に注意が必要です。

3-2. 曲げ応力度の照査

鋼矢板に発生する最大曲げ応力度$\sigma_{max}$が、「1-3. 鋼矢板の設定」で決めた許容応力度$\sigma_{sa}$以下であれば「OK」と判定し、「4. 変位の計算」に進みます。

許容応力度を超えた場合は「NG」と判定し、「1-3. 鋼矢板の設定」に戻り、鋼矢板の型式を変えることになります。

鋼矢板に発生する最大曲げ応力度は、次の式で計算します。

$$ \sigma_{max}=\frac{M_{max}}{Z \cdot e} \nonumber $$

ここに

  • $\sigma_{max}$:鋼矢板に発生する最大曲げ応力度(N/mm2
  • $Z$:断面係数(m3/m)  $Z=\textcolor{red}{1,340} \ \mathrm{cm^3/m}$   $=\textcolor{red}{0.0013400} \ \mathrm{m^3/m}$
  • $e$:断面係数の有効率(応力度の計算) $e=\textcolor{red}{60\ \mathrm{\%}}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma &=\frac{69.604}{0.0013400 \cdot 0.6}\\[5px] &= 86,572\ \mathrm{kN/m^2}\\[5px] &= \textcolor{red}{86.6}\ \mathrm{N/mm^2} \ \leqq \sigma_{sa}=270.0\ \mathrm{N/mm^2}\ \mathrm{\bbox[5px, border: 2px solid gray]{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4. 変位の計算

自立式土留め壁頭部の変位量は3つの変位量を足し合わせて求めます。

4-1. 掘削底面での変位量

掘削底面での変位量は、下式で求めます。(H11道仮p154)

$$ \delta_1 = \frac{(1+\beta_2 \cdot h_0)}{2 \cdot E \cdot I \cdot \beta_2 \ ^3}P \nonumber $$

ここに、

  • $\beta_2$:杭の特性値(mー1)  $\beta_2=\textcolor{red}{0.457}$
  • $h_0$:掘削平面から合力の作用位置までの高さ(m)  $h_0=\textcolor{red}{0.97} \ \mathrm{m}$
  • $E$:ヤング係数(kN/m2)  $E=\textcolor{red}{200,000,000} \ \mathrm{kN/m^2}$
  • $I$:土留め壁の断面二次モーメント(m4)  $I=\textcolor{red}{0.00016800} \ \mathrm{m^4}$
  • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算) $\textcolor{red}{45\ \mathrm{\%}}$
  • $P$:側圧の合力(kN)  $P=\textcolor{red}{48.58} \ \mathrm{kN}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_1 &=\frac{(1+0.457 \cdot 0.97)}{2 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45 \cdot 0.457 \ ^3} \cdot 48.58\\[5px] &= \textcolor{red}{0.0243}\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4-2. 掘削底面でのたわみ角による変位量

掘削底面でのたわみ角による変位量は、下式で求めます。(H11道仮p155)

$$ \delta_2 = \frac{(1+2 \cdot \beta_2 \cdot h_0)}{2 \cdot E \cdot I \cdot \beta_2 \ ^2}P \cdot H \nonumber $$

ここに、

  • $H$:深さ(m)  $H=\textcolor{red}{3.00}$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_2 &=\frac{(1+2 \cdot 0.457 \cdot 0.97)}{2 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45 \cdot 0.457 \ ^2} \cdot 48.58 \cdot 3.00\\[5px] &= \textcolor{red}{0.0435}\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4-3. 掘削底面以上の片持ちばりのたわみ

掘削底面以上のたわみは、下式で求めます。(H11道仮p155)

$$ \delta_3 = \frac{p_2\ ^\prime \cdot H^4}{30 \cdot E \cdot I} \nonumber $$

ここに、

  • $p_2 \ ^\prime$:モーメントを等価とする三角形分布荷重の掘削底面での荷重強度(kN/m)
    • $\displaystyle p_2\ ^\prime = \frac{6 \cdot \sum M}{H^2}$
      • $\sum M$:土留め壁に発生する最大曲げモーメント(kN・m)  $\sum M = \textcolor{red}{46.98}$
    • よって、
    • $\displaystyle p_2\ ^\prime = \frac{6 \cdot 46.98}{3.00^2} \ =\textcolor{red}{31.32}\ \mathrm{kN/m}\nonumber$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta_3 &= \frac{31.32 \cdot 3.00^4}{30 \cdot 200,000,000 \cdot 0.00016800 \cdot 0.45}\\[5px] &= \textcolor{red}{0.0056}\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4-4. 変位量の照査

上記の変位量3つの合計が、「1-1. 設計条件の設定」で決めた許容変位量$\delta_a$以下であれば「OK」と判定し、終了します。

許容変位量を超えた場合は「NG」と判定し、「1-3. 鋼矢板の設定」に戻って鋼矢板の型式を変えます。

$$ \begin{equation} \begin{split} \delta &= \delta_1 +\delta_2 +\delta_3\\[5px] &= 0.0243 + 0.0435 + 0.0056\\[5px] &= \textcolor{red}{0.073}\ \mathrm{m} \ \leqq \ \delta_a = 0.090\ \mathrm{m}\ \mathrm{\bbox[5px, border: 2px solid gray]{OK}} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

これで設計終了です。

結果は、「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型」の鋼矢板で、長さ「10.0m(根入れ長6.76m)」となりました。

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

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