この記事では、土木工事に用いられる仮設土留め壁「小規模の切ばり式鋼矢板」をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。

設計の考え方とフローチャート

設計の考え方は、社団法人日本道路協会が平成11年3月に発行した道路土工仮設構造物工指針(以下、H11道仮という。)のp156~160に基づいています。

今回紹介する設計プロセスの適用範囲は「掘削深さH=3.0m以下、砂質地盤」です。(H11道仮p.156)

下記の画像は、設計のフローチャートです。クリックすると別ウィンドウで開きます。

📌NOTE
  • 仮設土留の設計フローは、H11道仮p.27にも掲載されていますが、小規模の切ばり式鋼矢板の設計に特化したフローを書いてみました。
  • 近畿地方整備局がWebサイトで公開している「設計便覧(案) -第1編共通編-第2章仮設構造物-第1節共通事項(標準)(p.2-8)」においては、H11道仮p.338に掲載されている「小規模土留めの設計図表」について、適用条件に当てはまれば、用いることができるとされています。
  • ただし、今回紹介する設計計算例の設計条件では、「地盤が単層である場合もしくは単層とみなせる場合」に該当しないため、設計図表を用いることができません。

1. 設計条件

1-1. 設計条件の設定

(1) 掘削寸法・荷重・地下水位

  • 掘削深さ $H=3.0\ \mathrm{m}$
  • 掘削幅(短辺) $B_e=4.0\ \mathrm{m}$
  • 上載荷重 $q=10.0\ \mathrm{kN/m^2}$
  • 地表面から地下水位までの深さ $G.L.=-1.3\ \mathrm{m}$

(2) 地盤物性値

地盤の各数値を表にすると下記のとおりです。

層厚
$h$
(m)
土質 地下水

(m)
N値 単位体積重量
$\gamma$
(kN/m³)
水中単位重量
$\gamma\ ^\prime$
(kN/m³)
せん断抵抗角
$\phi$
(度)
粘着力
$c$
(kN/m²)
1層 0.30 砂質土 6 17 10 0
2層 1.00 砂質土 6 17 10 0
3層 1.70 砂質土 1.70 6 17 8 10 0
掘削$\sum$ 3.00 1.70
4層 10.00 砂質土 10.00 20 19 10 32 0

1-2. 鋼矢板の設定

設計条件として、鋼矢板の型式を「仮に」設定します。今回は、「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型」にします。

  • 型式:$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型
  • 断面二次モーメント $I= 8,740\ \mathrm{cm^4/m}$
  • 断面係数 $Z= 874\ \mathrm{cm^3/m}$
  • 鋼矢板の許容応力度 $\sigma_{sa}= 270\ \mathrm{N/mm^2}$ (H11道仮p.48より)
  • ヤング係数 $E = 200,000\ \mathrm{N/mm^2}$ (H11道仮p.46より)
  • $h = 100\ \mathrm{mm}$ (H11道仮p.320より)
  • 断面二次モーメントの有効率(断面力、変位の計算):$45$% (H11道仮p.107)
  • 断面係数の有効率(応力度の計算):$60$% (H11道仮p.109)

後述する「根入れ長の計算」、「土留め壁の断面計算」のいずれかで「NG」となった場合は、この設定を見直すことになります。(フローチャート参照)

H11道路土工仮設構造物工指針p.320には、鋼矢板の型式が記載されています。設計に必要なところだけ抜粋して表にすると次のとおりです。

W
(mm)
h
(mm)
t
(mm)
断面二次モーメント
(cm⁴/m)
断面係数
(cm³/m)
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型 400 100 10.5 8,740 874
$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型 400 125 13.0 16,800 1,340
400 130 13.0 17,400 1,340
$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{V}$型 400 170 15.5 38,600 2,270
$\mathrm{V_L}$型 500 200 24,3 63,000 3,150

このうち、「$\mathrm{I}\hspace{-1.2pt}\mathrm{I}$型」と「$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型のh=130」と「$\mathrm{V_L}$型」は、リース材として取り扱われていない地域があります。設計の際はその地域の実情にあわせて採用の可否を判断するべきでしょう。

📌NOTE
  • 鋼矢板の許容応力度については、H11道路土工仮設構造物工指針に掲載の値と、土木工事仮設計画ガイドブックに掲載の値とが異なっていますので、注意しましょう。
  • 有効率についての解説は、一般社団法人鋼管杭・鋼矢板技術協会の発行資料「鋼矢板Q&A」の「Q6.7 鋼矢板の継手効率とは?」が分かりやすいと思います。

1-3. 腹起し材の設定

  • 型式(リース加工品):H-300
  • 高さ $H=300\ \mathrm{mm}$
  • 幅 $B=300\ \mathrm{mm}$
  • ウェブ幅 $t_1=10\ \mathrm{mm}$
  • フランジ厚 $t_2=15\ \mathrm{mm}$
  • 断面係数 $Z=1,150\ \mathrm{cm^3}$
  • 曲げ引張の許容応力度 $\sigma_{sa}= 210\ \mathrm{N/mm^2}$
  • せん断の許容応力度 $\tau_a= 120\ \mathrm{N/mm^2}$

1-4. 切ばり材の設定

  • 水平間隔 $B_p=4.00\ \mathrm{m}$
  • 長さ $L=3.20\ \mathrm{m}$
  • 型式(リース加工品):H-200
  • 高さ $H=200\ \mathrm{mm}$
  • 幅 $B=200\ \mathrm{mm}$
  • ウェブ幅 $t_1=8\ \mathrm{mm}$
  • フランジ厚 $t_2=12\ \mathrm{mm}$
  • 断面積 $A=51.53\ \mathrm{cm^2}$
  • 断面係数 $Z=366\ \mathrm{cm^3}$
  • 断面二次半径(強軸) $r_y=8.43\ \mathrm{cm}$
  • 断面二次半径(弱軸) $r_z=4.22\ \mathrm{cm}$
  • 曲げ引張の許容応力度 $\sigma_{sa}= 210\ \mathrm{N/mm^2}$
  • せん断の許容応力度 $\tau_a= 120\ \mathrm{N/mm^2}$

H11道路土工仮設構造物工指針p.320には、H型鋼(リース加工品)の断面性能が記載されています。設計に必要なところだけ抜粋して表にすると次のとおりです。

高さ
$H$
(mm)

$B$
(mm)
ウェブ幅
$t_1$
(mm)
フランジ厚
$t_2$
(mm)
断面積
$A$
(cm²)
断面二次半径
$r_y$
(cm)
断面二次半径
$r_z$
(cm)
断面係数
$Z$
(cm³)
H-200 200 200 8 12 51.53 8.43 4.22 366
H-250 250 250 9 14 78.18 10.60 6.05 708
H-300 300 300 10 15 104.80 12.90 7.51 1,150
H-350 350 350 12 19 154.90 15.10 8.99 2,000
H-400 400 400 13 21 197.70 17.30 10.10 2,950
📌NOTE
  • H11道仮p.320の右下に掲載されているH型鋼の断面図には誤記があり、X軸とY軸が逆に記載されています。
  • 日本道路協会のWebサイトに掲載されている正誤表でも修正事項に含まれていませんので、ご注意ください。
  • H型鋼には、腹起し材と切ばり材に用いられる「リース加工品」のほかに、「生材」と呼ばれる構造材があります。生材の断面性能はH11道仮p.315に記載されています。
  • リース加工品には「孔」があけられており、断面係数などの数値が生材とは異なっています。
  • 間違えないように注意しましょう。

2. 根入れ長の計算(鋼矢板の長さの決定)

小規模土留めの根入れ長は、「慣用法による土留めの設計(1)根入れ長の決定」に準じて行う。(H11道仮p.159)

よって、H11道仮p.87の「慣用法による土留め壁の設計(1)根入れ長の決定」より、

  1. 根入れ部の土圧および水圧に対する安定から必要となる根入れ長
  2. 土留め壁の許容鉛直支持力から定まる根入れ長
  3. 掘削底面の安定から定まる根入れ長
  4. 最小根入れ長

のうち最も長いものとする。

2-1. 根入れ部の土圧および水圧に対する安定から必要となる根入れ長

根入れ長は、掘削完了時および最下段切ばり設置直前の両者において、それぞれつり合い深さの1.2倍とする。つり合い深さは、極限平衡法を用いて計算する。(H11道仮p.87)

今回の設計例では、切ばりが1段なので、掘削完了時のみを対象に計算を行う。

(1) 主働土圧

主働土圧は次の式で求めます。(H11道仮p.157)

$$ \begin{align} p_a & =K_a\ (\sum\gamma\ h+q)-2c\sqrt{K_a}\nonumber \\ K_a & =\tan^2\left(45^\circ \ – \ \frac{\phi}{2}\right)\nonumber \end{align} $$

ここに、

  • $p_a$:主働土圧(kN/m²)
  • $K_a$:主働土圧係数
  • $\sum \gamma\ h$:着目点における地盤の有効土かぶり圧(kN/m²)
  • $\gamma$:各層の土の湿潤単位体積重量(kN/m³)
    • ただし、地下水位以下では水中単位体積重量 $\gamma\ ^\prime$ とする。
  • $h$:着目点までの各層の層厚(m)
  • $q$:地表面までの上載荷重(kN/m²)
  • $c$:土の粘着力(kN/m²)
  • $\phi$:土のせん断抵抗角(度)

以上をもとに、掘削部の各層の主働土圧を表計算すると次のとおり。

層厚
$h$
(m)
土質 主働土圧係数
$K_a$

$\gamma$
(kN/m³)

$\sum \gamma \ h+q$
(kN/m²)
主働土圧
$p_a$
(kN/m²)
1層 0.30 砂質 0.704 17 10.00
15.10
$p_{a1上}=$ 7.04
$p_{a1下}=$ 10.63
2層 1.00 砂質 0.704 17 15.10
32.10
$p_{a2上}=$ 10.63
$p_{a2下}=$ 22.60
3層 1.70 砂質 0.704 8 32.10
45.70
$p_{a3上}=$ 22.60
$p_{a3下}=$ 32.17
4層 $ℓ_0$ 砂質 0.307 10 45.70
10$ℓ_0$+45.70
$p_{a4上}=$ 14.03
$p_{a4下}=$ 下式
$$ \begin{equation} \begin{split} p_{a4下} &=K_a\ (\sum\gamma\ h+q)-2c\sqrt{K_a} \\[5px] &=0.307 \cdot (10 \cdot ℓ_0 + 45.70) - 2 \cdot 0 \sqrt{0.307} \\[5px] &=3.07 \cdot ℓ_0 + 14.03 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

(2) 受働土圧

受働土圧は次の式で求めます。(H11道仮p.157)

$$ \begin{align} p_p & =K_p \sum\gamma\ h'+2c\sqrt{K_p} \nonumber \\[5px] K_p & =\tan^2\left(45^\circ \ + \ \frac{\phi}{2}\right) \nonumber \end{align} $$

ここに、

  • $p_p$:受働土圧(kN/m²)
  • $K_p$:受働土圧係数
  • $\sum \gamma\ h’$:着目点における地盤の有効土かぶり圧(kN/m²)
  • $\gamma$:各層の土の湿潤単位体積重量(kN/m³)
    • ただし、地下水位以下では水中単位体積重量 $\gamma\ ^\prime$ とする。
  • $h’$:着目点までの各層の層厚(m)
  • $q$:地表面までの上載荷重(kN/m²)
  • $c$:土の粘着力(kN/m²)
  • $\phi$:土のせん断抵抗角(度)

以上をもとに、根入れ部の受働土圧を表計算すると次のとおり。

層厚
$h'$
(m)
土質 受働土圧係数
$K_p$

$\gamma$
(kN/m³)

$\sum \gamma \ h'$
(kN/m²)
受働土圧
$p_p$
(kN/m²)
4層 $ℓ_0$ 砂質 3.255 10 0.00
$p_{p4上}=$ 0.00
$p_{p4下}=$ 下式
$$ \begin{equation} \begin{split} p_{p4下} &=K_p \cdot \gamma \cdot h' \\[5px] &=3.255 \cdot 10 \cdot ℓ_0 \\[5px] &=32.55 \cdot ℓ_0 \end{split}\nonumber \end{equation} $$

(3) 水圧

水圧は静水圧とし、掘削底面までは深さに比例し増加させ、掘削底面から下はつり合い深さで「0」となるよう減少させる。よって、三角形分布となる。(H11道仮p.158)

層厚
$h$
(m)
地下水

(m)
水圧
$p_w$
(kN/m²)
1層 0.30 $p_{w1上}=0.00$
$p_{w1下}=0.00$
2層 1.00 $p_{w2上}=0.00$
$p_{w2下}=0.00$
3層 1.70 1.70 $p_{w3上}=0.00$
$p_{w3下}=17.00$
4層 $ℓ_0$ $ℓ_0$ $p_{w4上}=17.00$
$p_{w4下}=0.00$

(4) 切ばり位置からのモーメントのつり合い深さ

つり合い深さを算出するには、まず、切ばり位置での「主働土圧による作用モーメント」と、「受働土圧による抵抗モーメント」をそれぞれ求める。そして、それらが等しくなる条件の根入れ長が、つり合い深さとなる。

まず、側圧を求める。各層を2つに分割した各三角形の面積が側圧となるので、表計算すると下記のとおり。

計算式
底辺×高さ/2
側圧
$P_a$
(kN)
2層
10.63 × 1.00 /2
22.60 × 1.00 /2
5.32
11.30
3層
22.60 × 1.70 /2
32.17 × 1.70 /2
19.21
27.35
4層
14.03 × ℓ₀/2
(3.07ℓ₀ + 14.03) × ℓ₀/2
7.01 ℓ₀
1.54ℓ₀²+7.01ℓ₀

17.00 × 1.70/2
17.00 × ℓ₀/2
14.45
8.50 ℓ₀
4層 32.55ℓ₀ × ℓ₀/2 16.28ℓ₀²

次に、アーム長を求める。アーム長は、切ばり位置から各三角形の重心までの距離となる。

計算式
(切ばり位置から三角形
重心までの鉛直距離)
アーム長
$y$
(m)

1.00/3×1
1.00/3×2
0.33
0.67

1.00+1.70/3×1
1.00+1.70/3×2
1.57
2.13

1.00+1.70+ℓ₀/3×1
1.00+1.70+ℓ₀/3×2
0.33ℓ₀+2.70
0.67ℓ₀+2.70

1.00+1.70/3×2
1.00+1.70+ℓ₀/3×1
2.13
0.33ℓ₀+2.70
1.00+1.70+ℓ₀/3×2 0.67ℓ₀+2.70

主働土圧による作用モーメント$M_a$は、「側圧 $P_a$」に「アーム長$y$」を乗じて算出する。

$$ M_a = P_a \cdot y $$

表計算すると下記のとおり。

主働側の側圧
$P_a$
(kN)
アーム長
$y$
(m)
作用モーメント
$M_a$
(kN・m)
2層 5.32 0.33 1.77
11.30 0.67 7.53
3層 19.21 1.57 30.09
27.35 2.13 58.34
4層 7.01 ℓ₀ 0.33ℓ₀+2.70 2.34ℓ₀²+18.94ℓ₀
1.54ℓ₀²+7.01ℓ₀ 0.67ℓ₀+2.70 1.02ℓ₀³+8.82ℓ₀²+18.94ℓ₀
14.45 2.13 30.83
8.50 ℓ₀ 0.33ℓ₀+2.70 2.83ℓ₀²+22.95ℓ₀
$\sum M_a=$ 1.02ℓ₀³+13.99ℓ₀²+60.83ℓ₀+128.56

以上より、主働土圧による作用モーメントは下式のとおりとなる。

$$ \sum M_a = 1.02 {ℓ_0}^3 + 13.99 {ℓ_0}^2 +60.83 ℓ_0 + 128.56 $$

今度は、受働土圧による抵抗モーメント$M_p$も同様に算出する。

受働側の側圧
$P_p$
(kN)
アーム長
$y$
(m)
作用モーメント
$M_p$
(kN・m)
4層 16.28ℓ₀² 0.67ℓ₀+2.70 10.85ℓ₀³+43.94ℓ₀²
$\sum M_p=$ 10.85ℓ₀³+43.94ℓ₀²

以上より、受働土圧による抵抗モーメントは下式のとおりとなる。

$$ \sum M_p = 10.85 {ℓ_0}^3 + 43.94 {ℓ_0}^2 $$

つり合い深さは、「主働土圧による作用モーメント」と「受働土圧による抵抗モーメント」が等しい条件の根入れ長なので、下式のとおりとなる。

$$ \sum M_a = \sum M_p $$

変形すると、

$$ \sum M_a - \sum M_p =0 $$

よって、

$$ 1.02 {ℓ_0}^3 + 13.99 {ℓ_0}^2 +60.83 ℓ_0 + 128.56 -(10.85 {ℓ_0}^3 + 43.94 {ℓ_0}^2)=0 $$
$$ -9.83 {ℓ_0}^3 -29.95 {ℓ_0}^2 + 60.83ℓ_0 +128.56 =0 $$

カルダノ(Cardano)の公式により、3次方程式の解を求めると、モーメントのつり合い深さは、下記のとおりとなる。

$$ ℓ_0=2.26(掘削底面より下方向に2.26\mathrm{m}の位置) $$
📌NOTE
  • カルダノ(Cardano)の公式については、Webを検索すると解説が簡単に見つかりますので、解説はそちらに譲ります。

(5) 根入れ長

根入れ長は、つり合い深さの1.2倍とする。(H11道仮p.87)

よって、根入れ長は、

$$ ℓ=2.26 \times 1.2 = 2.71\ \mathrm{m} $$

2-2. 土留め壁の許容鉛直支持力から定まる根入れ長

路面覆工等からの鉛直荷重が作用しないので、検討を省略する。(H11道仮p.29)

2-3. 掘削底面の安定から定まる根入れ長

掘削深さが3m以下であるため、検討を省略する。(H11道仮p.160)

2-4. 最小根入れ長

小規模土留めの設計において、最小根入れ長は土留め壁の種類に関係なく、掘削深さの1/2とする。(H11道仮p159)

よって、

$$ ℓ_{min}=3.0 / 2 = 1.50\ \mathrm{m} $$

2-5. 根入れ長の決定

根入れ長は、それぞれの計算により求められる根入れ長のうち最も長いものとする。(H11道仮p87)

  • 土圧および水圧に対する安定から必要となる根入れ長
    • $ℓ=2.71\ \mathrm{m}$
  • 最小根入れ長
    • $ℓ_{min}=1.50\ \mathrm{m}$

よって、根入れ長は、

$$ D=2.71\ \mathrm{m} $$

2-6. 鋼矢板の長さ

鋼矢板の長さは、「掘削深さ」に「根入れ長」を加え、0.5m単位で切り上げる。

$$ \begin{equation} \begin{split} L &=H + D \\[5px] &=3.0 + 2.71 \\[5px] &=5.71 \\[5px] &\fallingdotseq 6.0 \ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

ただし、リース材の標準保有長さの範囲外、最小長さ未満の場合は、鋼矢板の型式を見直すこと。(保有長さは地域により異なる。)

型式$\mathrm{I}\hspace{-1.6pt}\mathrm{I}$型については、

  • 標準保有長さ 4.0~8.0m
  • 最小長さ 4.0m

であるため、L=6.0mはOK。

3. 土留め壁の断面計算

土留め壁の断面計算に用いる最大曲げモーメントは、掘削完了時における最下段切ばり、または、最下段切ばり設置直前における一段上の切ばりと、それぞれの場合の「仮想支持点」間をスパンとする単純ばりとし、この両方の場合について断面決定用土圧を作用させて計算する。(H11道仮p.90)

断面決定用の土圧は、根入れ長の計算で用いた値を用いる。(H11道仮p.157)
注意!断面決定用の土圧は通常、H11道仮p.91に従い、同p.36の値を用いることになるが、小規模土留め壁の場合は、H11道仮p.157のとおり根入れ長の計算で用いた値を用いる。

ここでは、切ばりが1段なので、掘削完了時のみを対象に計算を行う。

3-1. 仮想支持点の計算

仮想支持点は、土留め壁の根入れ長決定のための安定計算で「つり合い深さ」を求めた際の受働抵抗の合力の作用点とする。(H11道仮p.91)

最下段切ばりから、下方向にある仮想支持点までの距離は、下式により算出する。

$$ y_p= \frac{\sum M_p}{\sum P_p}\nonumber $$

ここに、

$$ \sum M_p = 10.85 {ℓ_0}^3 + 43.9 {ℓ_0}^2 $$
$$ \sum P_p = 16.28 {ℓ_0}^2 $$
$$ ℓ_0 =2.26\ \mathrm{m} $$

であるため、

$$ \begin{equation} \begin{split} y_p &=\frac{10.85 \times 2.26^3 + 43.9 \times 2.26^2}{16.28 \times 2.26^2} \\[5px] &=\frac{349.1}{83.0} \\[5px] &=4.21\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

なお、切ばりから掘削底面までの距離は、2.70mであるため、掘削底面から仮想支持点までの距離は、

$$ 4.21 - 2.70 = 1.51\ \mathrm{m} $$

となる。

一方、H11道仮p.159より、仮想支持点の最小値は、「最小根入れ長の1/2」であるため、
$1.50 / 2 = 0.75\ \mathrm{m}$
となる。
よって、1.51 ≧ 0.75なので、掘削底面から仮想支持点までの距離は、
$$ 1.51\ \mathrm{m} $$
となる。
📌NOTE
  • 今回の計算例のように受働土圧が1層である場合は、つり合い深さから直接算出することもできる。
  • つまり、受働土圧の三角形分布における重心(受働抵抗の合力の作用点)から掘削底面までの距離を計算すると、2.26 × 2 / 3 = 1.51mとなる。

3-2. 最大曲げモーメントの計算

(1) 切ばり位置における反力

切ばり位置をA点、仮想支持点をB点とする単純ばりを仮定し、A点における反力を計算する。

まず下表のとおり、A点(切ばり位置)からB点(仮想支持点)まで、主働土圧、水圧、受働土圧の合計を求める。

層厚
$h$
(m)
主働土圧
$p_a$
(kN/m²)
水圧
$p_w$
(kN/m²)
受働土圧
$p_p$
(kN/m²)

$p$
(kN/m²)
1層 上面
下面
0.30 $p_{a1上}=$ 7.04
$p_{a1下}=$ 10.63
$p_{w1上}=$ 0.00
$p_{w1下}=$ 0.00
-
-
2層 A
下面
1.00 $p_{a2上}=$ 10.63
$p_{a2下}=$ 22.60
$p_{w2上}=$ 0.00
$p_{w2下}=$ 0.00
-
-
$p_{2上}=$ 10.63
$p_{2下}=$ 22.60
3層 上面
下面
1.70 $p_{a3上}=$ 22.60
$p_{a3下}=$ 32.17
$p_{w3上}=$ 0.00
$p_{w3下}=$ 17.00
-
-
$p_{3上}=$ 22.60
$p_{3下}=$ 49.17
根入れ部 上面
B
1.51 $p_{a4上}=$ 14.03
$p_{a4B}=$ 18.65
$p_{w4上}=$ 17.00
$p_{w4B}=$ 5.67
$p_{p4上}=$ 0.00
$p_{p4B}=$ 49.01
$p_{4上}=$ 31.03
$p_{4B下}=$ -24.69
根入れ部 B
下面
0.75 $p_{a4B}=$ 18.65
$p_{a4下}=$ 20.96
$p_{w4B}=$ 5.67
$p_{w4下}=$ 0.00
$p_{p4B}=$ 49.01
$p_{p4下}=$ 73.51

次に、$p=0$となる位置を求める。$p=0$となる位置より下方向は負の土圧となるが、H11道仮p.92のとおり、負の土圧は考慮しない。

$p=0$となる位置(掘削底面からの距離)は、三角形の相似より下式のとおり求める。

$$ \begin{equation} \begin{split} \frac{p_{4上} \times 仮想支持点までの距離}{p_{4上}-p_{4B下}}=\frac{31.03 \times 1.51}{31.03 + 24.69}=0.84\ \mathrm{m} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
層厚
$h$
(m)

$p$
(kN/m²)
2層 A
下面
1.00 $p_{2上}=$ 10.63
$p_{2下}=$ 22.60
3層 上面
下面
1.70 $p_{3上}=$ 22.60
$p_{3下}=$ 49.17
根入れ部 上面
0
0.84 $p_{4上}=$ 31.03
$p_{40}=$ 0.00
根入れ部 0
B
0.67 $p_{40}=$ 0.00
$p_{4B下}=$ -24.69
📌NOTE
  • 今回の設計例では、$p=0$になる点が発生しましたが、水位などの条件が変わると掘削底面から仮想支持点までの間に「0」が発生しない場合があります。
  • 記事の最後にあるエクセルブックは、「0」がある場合にのみ利用可能ですので、ご注意ください。

A点(切ばり位置)から$p=0$位置までを図のとおり、各層で2つの三角形に分割し、その面積「側圧$P$」を求める。

計算式 側圧
$P$
(kN)
2層
10.63×1.00/2
22.60×1.00/2
5.32
11.30
3層
22.60×1.70/2
49.17×1.70/2
19.21
41.80
根入れ部
31.03×0.84/2
13.01

B点(仮想支持点)から各三角形の重心までの距離「アーム長$y_B$」を求める。

計算式 アーム長
$y_B$
(m)
2層
0.67+0.84+1.70+1.00/3×2
0.67+0.84+1.70+1.00/3×1
3.87
3.54
3層
0.67+0.84+1.70/3×2
0.67+0.84+1.70/3×1
2.64
2.07
根入れ部 0.67+0.84/3×2 1.23

側圧$P$にアーム長$y_B$を乗じて、B点での作用力によるモーメント$M_B$を算出する。

側圧
$P$
(kN)
アーム長
$y_B$
(m)
モーメント
$M_B$
(kN・m)
2層
5.32
11.30
3.87
3.54
20.58
39.99
3層
19.21
41.80
2.64
2.07
50.69
86.61
4層 13.01 1.23 15.95
213.8

よって、A点(切ばり位置)における反力$R_A$は、B点でのモーメントのつり合いより、

$$(A点からB点までの距離)\times R_A = \sum M_B $$ $$(1.00 + 1.70 + 1.51)\times R_A=213.8 $$ よって、切ばり位置における反力は $$R_A=50.8\ \mathrm{kN}$$

(2) 土圧・水圧による曲げモーメント

最大曲げモーメントは、AB間の中央付近である「3層」で発生すると想定されるので、2層と3層との境界から下方向に距離 「$x$」 を定義し、その「$x$」から上部方向における曲げモーメントを計算する。

📌NOTE
  • 最大曲げモーメントの発生位置をある程度想定した方が計算が簡単になります。
  • もし、計算結果が「3層」に収まらない場合は、別の層で再度計算することになります。
層厚
$h$
(m)

$p$
(kN/m²)
2層 A
下面
1.00 $p_{2上}=$ 10.63
$p_{2下}=$ 22.60
3層 上面
$x$
1.70 $p_{3上}=$ 22.60
$p_{3x}=$ 28.93 $x$
$x$
下面
$p_{3x}=$ 28.93$x$
$p_{3下}=$ 49.17

ここで、

$$ p_{3x}=\frac{49.17}{1.70}x=28.93x \nonumber $$

側圧は三角形の面積なので、下表のとおり計算される。

計算式
底辺×高さ/2
側圧
$P$
(kN)
2層
10.63 × 1.00 /2
22.60 × 1.00 /2
5.32
11.30
3層
22.60 × 1.70 /2
28.93 $x$ × 1.70 /2
19.21
24.59 $x$

次に、アーム長を求める。アーム長は、「$x$」の位置から各三角形の重心までの距離となる。

計算式
「$x$」から三角形
重心までの鉛直距離
アーム長
$y$
(m)
2層
$x$+1.00/3×2
$x$+1.00/3×1
$x$+0.67
$x$+0.33
3層
$x$/3×2
$x$/3×1
0.67$x$
0.33$x$

モーメント$M$は、「側圧 $P$」に「アーム長$y$」を乗じて算出する。

$$ M = P \cdot y $$

表計算すると下記のとおり。

側圧
$P$
(kN)
アーム長
$y$
(m)
作用モーメント
$M$
(kN・m)
2層 5.32 $x$+0.67 5.32$x$+3.54
11.30 $x$+0.33 11.30$x$+3.77
3層 19.21 0.67$x$ 12.81$x$
24.59$x$ 0.33$x$ 8.20$x^2$
$\sum M=$ 8.20$x^2$+29.42$x$+7.31

以上より、作用モーメントは下式のとおりとなる。

$$ \sum M= 8.20x^2+29.42x+7.31 $$

(3) 最大曲げモーメント

(1),(2)より、任意点xでの曲げモーメントは、下式のとおりとなる。

$$ \begin{equation} \begin{split} M_x &=R_A \cdot ( x + 1.00)-(8.20x^2+29.42x+7.31) \\[5px] &=50.8 \cdot ( x + 1.00)-(8.20x^2+29.42x+7.31) \\[5px] &=-8.20x^2+21.42x+43.53 \end{split} \nonumber \end{equation} $$
微分すると、
$$ M_x ^\prime =-16.39x+21.42 \nonumber $$

最大曲げモーメントの位置は、上式=0となるため、

$$ \begin{equation} \begin{split} x &=21.42/16.39\\[5px] &=1.31\ \mathrm{m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

よって、最大曲げモーメントの値は、

$$ \begin{equation} \begin{split} M_{max} &=-8.20 \times 1.31^2 + 21.42 \times 1.31 + 43.5\\[5px] &=57.53\ \mathrm{kN・m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

3-3. 曲げ応力度の照査

鋼矢板に発生する最大曲げ応力度が、許容応力度以下であれば「OK」と判定し、「4. 変位の計算」に進む。
許容応力度をを超えた場合は「NG」と判定し、「1-3. 鋼矢板の設定」に戻り、鋼矢板の型式を上げる。(H11道仮p.159、109)

$$ \sigma_{max}=\frac{M_{max}}{Z \cdot e} \nonumber $$

ここに、

  • $\sigma_{max}$:鋼矢板に発生する最大曲げ応力度(N/mm²)
  • $Z$:断面係数(m³/m)$Z=874\ \mathrm{cm^3/m}=0.0008740\ \mathrm{m^3/m}$
  • $e$:断面係数の有効率(応力度の計算)$e=60\%$

よって、

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma_{max} &=\frac{57.53}{0.0008740 \cdot 0.6}\\[5px] &=109,710\ \mathrm{kN/m^2}\\[5px] &=109.7\ \mathrm{N/mm^2} \leqq \sigma_{sa}=270.0\ \mathrm{N/mm^2} \ \mathrm{OK} \end{split}\nonumber \end{equation} $$

4. 支保工の設計

支保工の設計は、H11道仮p.160に準じて行う。

4-1. 荷重の計算

支保工の設計に用いる荷重は、断面決定用土圧と水圧とし、最終掘削状態において各段の支保工に下方分担法により作用させる。(H11道仮p.116)

下方分担法の概念は、H11道仮p.117記載の図のとおりであり、1段切ばりの場合における支保工反力は、「地表面から掘削底面まで」の側圧に対する反力となる。

まず、主働土圧と水圧の合計を算出する。

層厚
$h$
(m)
主働土圧
$p_a$
(kN/m²)
水圧
$p_w$
(kN/m²)

$p=p_a+p_w$
(kN/m²)
1層 上面
下面
0.30 $p_{a1上}=7.04$
$p_{a1下}=10.63$
$p_{w1上}=0.00$
$p_{w1下}=0.00$
$p_{1上}=7.04$
$p_{1下}=10.63$
2層
下面
1.00 $p_{a2上}=10.63$
$p_{a2下}=22.60$
$p_{w2上}=0.00$
$p_{w2下}=0.00$
$p_{2上}=10.63$
$p_{2下}=22.60$
3層 上面
下面
1.70 $p_{a3上}=22.60$
$p_{a3下}=32.17$
$p_{w3上}=0.00$
$p_{w3下}=17.00$
$p_{3上}=22.60$
$p_{3下}=49.17$

次に、側圧を算出する。側圧は各層における「台形の面積」なので、下表のとおりとなる。

計算式 側圧
$P$
(kN)
1層 (7.04+10.63)×0.30/2 2.65
2層 (10.63+22.60)×1.00/2 16.61
3層 (22.60+49.17)×1.70/2 61.01
$\sum$ 80.27

よって、単位長さ当りの支保工反力は

$$ R_1=80.27\ \mathrm{kN/m} $$

となる。

4-2. 腹起しの設計

(1) 断面力

腹起しを設計する際の荷重の載荷方法は、単位長さ当りの支保工反力$R_1$を等分布荷重として載荷する。そして、切ばりの水平間隔$B_p$をスパンとする単純ばりとして断面力を計算する。(H11道仮p.118)

最大曲げモーメント$M_{max}$は、等分布荷重が作用する単純ばりとして、公式により求める。

$$ \begin{equation} \begin{split} M_{max} &=\frac{R_1 \cdot B_p^2}{8} \\[5px] &=\frac{80.27 \cdot 4.00^2}{8} \\[5px] &=160.54 \ \mathrm{kN・m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

最大せん断力$S_{max}$も同様。

$$ \begin{equation} \begin{split} S_{max} &=\frac{R_1 \cdot B_p}{2} \\[5px] &=\frac{80.27 \cdot 4.00}{2} \\[5px] &=160.54 \ \mathrm{kN} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

(2) 応力度の照査

曲げ応力度は、最大曲げモーメント$M_{max}$を断面係数$Z$で除して求め、それが許容応力度以下であればOKと判定する。

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma &=\frac{M_{max}}{Z}\\[5px] &=\frac{160.54 \times 1,000,000}{1,150 \times 1,000}\\[5px] &=139.6\ \mathrm{N/mm^2} \leqq \sigma_{sa}=210.0\ \mathrm{N/mm^2} \ \mathrm{OK} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

せん断応力度は、最大せん断力$S_{max}$をウェブの面積$A_w$で除して求め、それが許容応力度以下であればOKと判定する。

$$ \begin{equation} \begin{split} \tau &=\frac{S_{max}}{A_w}\\[5px] &=\frac{160.54 \times 1,000}{(300-2 \times 15) \times 1,000}\\[5px] &=59.5\ \mathrm{N/mm^2} \leqq \tau_{a}=120.0\ \mathrm{N/mm^2} \ \mathrm{OK} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

4-3. 切ばりの設計

(1) 断面力

切ばりは、「軸力」と「モーメント」が作用する部材として設計する。(H11道仮p.121)

軸力は、「土圧」、「水圧」、および「温度変化に伴う軸力」を考慮する。

温度変化に伴う軸力増加を$\Delta N = 150 \ \mathrm{kN}$とする。

よって、軸力$N$は、

$$ \begin{equation} \begin{split} N &=R_1 \cdot B_p + \Delta N\\[5px] &=80.27 \times 4.00 + 150\\[5px] &=471.1\ \mathrm{kN} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

曲げモーメントは、鉛直方向座屈長(中間杭がないため、切ばり全長)をスパンとする単純ばりで計算する。
曲げ荷重は、切ばりの自重を含めて$w=5\ \mathrm{kN/m}$とする。(H11道仮p.122)

よって、曲げモーメント$M_{max}$は、

$$ \begin{equation} \begin{split} M_{max} &=\frac{w \cdot L^2}{8} \\[5px] &=\frac{5.00 \times 3.20^2}{8} \\[5px] &=6.4 \ \mathrm{kN・m} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

(2) 安定の照査

照査は、2つの照査式で行う。(H11道仮p50)

照査式(2-6-1)

$$ \begin{equation} \begin{split} \frac{\sigma_c}{\sigma_{caz}}+\frac{\sigma_{bcy}}{\sigma_{bagy}(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eay}})}+\frac{\sigma_{bcz}}{\sigma_{bao}(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eaz}})} \leqq 1 \end{split} \nonumber \end{equation} $$

照査式(2-6-2)

$$ \sigma_c+\frac{\sigma_{bcy}}{(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eay}})}+\frac{\sigma_{bcz}}{(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eaz}})} \leqq \sigma_{caℓ} \nonumber $$

ここに、

  • $\sigma_c$:照査する断面に作用する軸方向力による圧縮応力度(N/mm²)
    • $\displaystyle \sigma_c=\frac{N}{A}=\frac{471.1 \times 1,000}{51.53 \times 100}=91.4\ \mathrm{N/mm^2}$
  • $\sigma_{bcy}$:強軸まわりに作用する曲げモーメントによる曲げ圧縮応力度(N/mm²)
    • $\displaystyle \sigma_{bcy}=\frac{M_{max}}{Z}=\frac{6.4 \times 1,000,000}{366 \times 1,000}=17.5\ \mathrm{N/mm^2}$
  • $\sigma_{bcz}$:弱軸まわりに作用する曲げモーメントによる曲げ圧縮応力度(N/mm²)
    • $\displaystyle \sigma_{bcz}=0$
  • $\sigma_{caz}$:弱軸まわりの許容軸方向圧縮応力度(N/mm²)
    • ただし、$b ^\prime \leqq 13.1\ t ^\prime$ とする
    • $b ^\prime$:切ばりのフランジ片幅
      • $b ^\prime = ( 200-8)/2=96 \ \mathrm{mm}$
    • $t ^\prime$:切ばりのフランジ厚
      • $t ^\prime = 12 \ \mathrm{mm}$
    • $ℓ_z$:切ばりの弱軸まわりの座屈長(水平方向座屈長)
      • $ℓ_z=3.2 \ \mathrm{m}$(H11道仮p122より)
    • よって、弱軸の細長比は、
      • $\displaystyle \frac{ℓ_z}{r_z}=\frac{3.2 \times 1,000}{4.2 \times 10}=75.8$
    • よって、軸方向圧縮の計算式は、18<ℓ/r≦92 より(H11道仮p.47)
$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma_{caz}&=[140-0.82(ℓ/r_z-18)]\times 1.5\\[5px] &=[140-0.82(75.8-18)]\times1.5\\[5px] &=138.9\ \mathrm{N/mm^2} \end{split}\nonumber \end{equation} $$
  • $\sigma_{bagy}$:局部座屈を考慮しない強軸まわりの許容曲げ圧縮応力度(N/mm²)
    • ただし、$2A_c \geqq A_w$
    • $A_c$:圧縮フランジの総断面積
      • $A_c=200 \times 12 = 2,400\ \mathrm{mm^2}$
    • $A_w$:ウェブの総断面積
      • $A_w=(200 - 2 \times 12) \times 8 = 1,408\ \mathrm{mm^2}$
    • $ℓ_y$:フランジ間の固定間距離(鉛直方向座屈長)
      • $ℓ_y=3.2\ \mathrm{m}$(H11道仮p.122)
    • よって、$ℓ/b$は、
      • $\displaystyle \frac{ℓ_y}{b}=\frac{3.2 \times 1,000}{200}=16.0$
    • よって、曲げ圧縮縁の計算式は、4.5 <$ℓ/b$≦30より(H11道仮p47)
$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma_{bagy}&=\{140 - 2.4 ( ℓ_y / b - 4.5)\} \times 1.5\\[5px] &=\{140 - 2.4 ( 16.0 / b - 4.5)\} \times 1.5\\[5px] &=168.6 \ \mathrm{N/mm^2} \end{split} \nonumber \end{equation} $$
  • $\sigma_{ba0}$:局部座屈を考慮しない許容曲げ圧縮応力度の上限値
    • $\sigma_{ba0}=210 \ \mathrm{N/mm^2}$(H11道仮p51)
  • $\sigma_{caℓ}$:圧縮応力を受ける自由突出板の局部座屈に対する許容応力度
    • $\sigma_{caℓ}=210 \ \mathrm{N/mm^2}$(H11道仮p51)
    • ただし、$b ^\prime \leqq 13.1\ t ^\prime$とする。
  • $\sigma_{eay}$:強軸まわりのオイラー座屈応力度(N/mm²) (H11道仮p51)
    • $\displaystyle \sigma_{eay}=\frac{1,200,000}{(ℓ ^\prime / r_y)^2}=\frac{1,200,000}{(3,200/84.3)^2}=\frac{1,200,000}{1,440.9}=832.8\ \mathrm{N/mm^2}$
  • $\sigma_{eaz}$:弱軸まわりのオイラー座屈応力度(N/mm²) (H11道仮p51)
    • $\displaystyle \sigma_{eaz}=\frac{1,200,000}{(ℓ ^\prime / r_z)^2}=\frac{1,200,000}{(3,200/42.2)^2}=\frac{1,200,000}{5,750.1}=208.7\ \mathrm{N/mm^2}$
      • $ℓ ^\prime$:材料両端の支点条件より定まる有効座屈長(mm)
      • $ℓ ^\prime=3.2 \times 1,000 = 3,200\ \mathrm{mm}$
      • $r_y, r_z$:それぞれ強軸および弱軸まわりの断面二次半径(mm)
      • $r_y=8.43 \times 10 = 84.3\ \mathrm{mm}$
      • $r_z=4.22 \times 10 = 42.2\ \mathrm{mm}$

よって、
照査式(2-6-1)

$$ \begin{equation} \begin{split} \frac{\sigma_c}{\sigma_{caz}}&+\frac{\sigma_{bcy}}{\sigma_{bagy}(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eay}})}+\frac{\sigma_{bcz}}{\sigma_{bao}(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eaz}})}\\[5px] &= \frac{91.4}{138.9}+\frac{17.5}{168.6(1-\frac{91.4}{832.8})}+\frac{0.0}{210.0(1-\frac{91.4}{208.7})} \\[5px] &=0.66+0.12+0.00\\[5px] &=0.77\leqq 1 \ \ \mathrm{OK} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

照査式(2-6-2)

$$ \begin{equation} \begin{split} \sigma_c&+\frac{\sigma_{bcy}}{(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eay}})}+\frac{\sigma_{bcz}}{(1-\frac{\sigma_c}{\sigma_{eaz}})} \\[5px] &=91.4+\frac{17.5}{(1-\frac{91.4}{832.8})}+\frac{0.0}{(1-\frac{91.4}{208.7})} \\[5px] &=91.4+19.6+0.0 \\[5px] &=111.1 \leqq \sigma_{caℓ}=210.0 \ \ \mathrm{OK} \end{split} \nonumber \end{equation} $$

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

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