この記事では、道路照明灯の基礎をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。

先にご紹介した昭和50年建設省通知に基づいた設計計算例では、基礎寸法が一択になってしまい、地中の障害物を避けきれない可能性がある問題がありました。

Excelで道路照明灯基礎の設計計算 -S50建設省通知-

Excelで道路照明灯基礎の設計計算 -S50建設省通知-

この記事では、道路照明灯の基礎をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。基礎の設計方法はいくつかありますが、今回紹介する設計方法は、昭和50年の建設省(現:国土交通省)通知を元にしています。

この問題を解決するため、これから紹介する設計計算例では、JIL1003:2009「照明用ポール強度計算基準」と建設省土木研究所資料第1035号「ポール基礎の安定計算法」に基づいています。

1. 設計方法

JIL 1003:2009「照明用ポール強度計算基準」より、基礎の天端に作用する水平力$H$と曲げモーメント$M$を計算したうえ、建設省土木研究所資料第1035号「ポール基礎の安定計算法」に基づき算出された表1~表7によって基礎の寸法を定める

📌NOTE
  • 風力係数の出典元になっているJIL1003:2009「照明用ポール強度計算基準」は、販売サイトで購入できます。
  • 建設省土木研究所資料第1035号「ポール基礎の安定計算法」は土木研究センターのコピーサービスで入手可能です。
  • ただ、近畿地方整備局がWebサイトで公開している「設計便覧(案)ー第4編電気通信編ー第4章道路照明設備ー第4節 照明柱等基礎」には、両文書の主要な箇所が転記されていますので、この記事では設計便覧(案)を参照して記事を作成しています。

2. 設計条件

地盤は自重に対して安定であるとする。(N値10程度の砂質地盤相当)

器具は「車道用の道路照明灯」とし、設計風速は「$V_{cr}=60 \ \mathrm{m/sec}$」とする。

支柱は「直線型テーパーポール 可変型 ベース式埋設型」とし、その形状寸法は、JIL1001:2019「照明用テーパーポール(鋼製)」p.24の「IA12.3B-C」のとおりとする。

路面高 $h_1$ $h_2$ $h_3$ $d_1$ $d_2$ $d_3$ $d_4$
12,000 2,500 8,000 1,500 75 75 195 195

出所:JIL1001:2019「照明用テーパーポール(鋼製)」(単位:mm)

📌NOTE
  • この照明灯の形状は、某県で標準的な設計とされています。
  • 私が仕事上で設計する照明灯の形状はこのタイプだけです。

3. 単位面積当たりの風荷重pの計算

$$ p=0.615 \cdot C \cdot V_{cr}^2 $$
  • $p$:有効投影面積当り風荷重(N/m²)
  • $C$:風力係数(ポール丸形0.7 、照明器具道路灯1.0)
  • $V_{cr}$:設計風速(m/sec)

よって、単位面積あたりの風荷重は次のとおり。

  • $p(器具) = 0.615 \times 1.0 \times 60^2 = 2,214.0\ \mathrm{N/m^2}$
  • $p(支柱) = 0.615 \times 0.7 \times 60^2 = 1,549.8\ \mathrm{N/m^2}$
📌NOTE
  • 単位面積当たりの風荷重を計算する式は、設計便覧(案)には掲載されていように見えますが、p.4-42の式に「$0.615 \cdot C \cdot {V_{cr}}^2$」が単位面積当たりの風荷重として含まれています。
  • なお、昭和50年建設省通知の式は「$\displaystyle p=\frac{1}{16} \cdot V^2 \cdot CD$」となっていますが、これを国際単位系(SI単位系)に換算すると同じ式になります。

4. 基礎の天端に作用する水平力Hの計算

水平力の計算式は「水平力$H$=受圧面積$A$ x 単位面積当たりの風荷重$p$」である。

よって、次表のとおり計算され、基礎の天端に作用する水平力$H$は「$2,705.50 \ \mathrm{N}$」となる。

部位 受圧面積計算式 受圧面積$A$
(m²)
風荷重$p$
(N/m²)
水平力$H$
(N)
器具 JIL1001:2019のp.5 0.13 2214.0 287.82
支柱上段 $h_1 \cdot d_2$ 0.19 1,549.80 294.46
支柱中段 $\displaystyle h_2 \cdot \frac{d_2 + d_3}{2}$ 1.08 1,549.80 1,673.78
支柱下段 $h_3 \cdot d_4$ 0.29 1,549.80 449.44
合計 2,705.50
📌NOTE
  • 器具(灯具)の受圧面積はJIL1001掲載の「0.13m²」で計算していが、設計便覧(案)のp.4-41には、色々な灯具の受圧面積が記載されています。
  • 実際に設置する灯具の仕様に合わせて受圧面積は変えてもよいでしょう。

5. 基礎の天端に作用する曲げモーメントMの計算

曲げモーメントの計算式は「曲げモーメント$M$=アーム長$L$ x 水平力$H$」である。

よって、次表のとおり計算され、基礎の天端に作用する曲げモーメント$M$は「$15,986.27\ \mathrm{N \cdot m}$」となる。

部位 アーム長の計算式 アーム長$L$
(m)
水平力$H$
(N)
曲げモーメント$M$
(N・m)
器具 $h_1 + h_2 + h_3 + 300$ 12.30 287.82 3,540.19
支柱上段 $\displaystyle \frac{ h_1}{2} + h_2 + h_3 + 300$ 11.05 294.46 3,253.78
支柱中段 $\displaystyle h_2 \cdot \frac{d_3 + 2 \cdot d_2}{ 3 \cdot (d_3 + d_2)} + h_3 +300$ 5.21 1,673.78 8,720.39
支柱下段 $\displaystyle \frac{ h_3 }{2}+300$ 1.05 449.44 471.91
合計 2,705.50 15,986.27
📌NOTE
  • アーム長の計算式のうち、支柱中段が見慣れない公式となっていますが、は支柱中段が台形になっているためです。
  • 台形の重心を求める公式については、インターネットで検索すると簡単に見つかりますので、そちらに解説は譲ります。

6. 基礎の選定

以上より、基礎の天端に作用する水平力$H$と曲げモーメント$M$は、

  • 水平力$H=2,705.50 \ \mathrm{N} = 0.28\ \mathrm{tf}$
  • 曲げモーメント$M=15,986.27 \ \mathrm{N \cdot m} = 1.63\ \mathrm{tf \cdot m}$

となるので、建設省土木研究所資料第1035号「ポール基礎の安定計算法」に基づき算出された表(設計便覧(案)p.4-47~p.4-51)において、$H=0.3$と$M=1.7$での根入れ長さが適用可能となるため、

  • 基礎寸法 60cm x 60cm x 180cm
  • または 100cm x 100cm x 120cm
  • または 120cm x 120cm x 100cm

となる。

📌NOTE
  • 計算式での力の単位は国際単位系の「N(ニュートン)」を使いまし、基礎選定の表は「tf」となっているので、注意しましょう。
  • 昭和50年建設省の通知では、選択できる基礎幅が「50cm」と「80cm」のみでしたが、JIL1003:2009「照明用ポール強度計算基準」からは、「30cm、40cm、50cm、60cm、100cm、120cm」が選択できるようになっています。
  • 設計便覧(案)には基礎幅「80cm」の表が記載されていませんが、昭和50年建設省通知にあるため、省略しているようです。

エクセルブック

計算を記載したエクセルブックは下記からダウンロードしてください。

DOWNLOAD

もし、間違いなどを見つけられた場合は、ご連絡いただけると幸いです。

昭和50年建設省通知では、計算結果から「基礎寸法 80cm x 80cm x 150cm」しか選択できませんでしたが、今回は3種類となり、合計4種類の基礎寸法が設計可能となります。

これよりさらに基礎寸法の深さを小さくしたいときは、下記の記事のとおり「直接基礎」として設計することになります。

Excelで道路照明灯基礎の設計計算 -H24設計便覧(案)の直接基礎-

Excelで道路照明灯基礎の設計計算 -H24設計便覧(案)の直接基礎-

この記事では、道路照明灯の基礎をエクセルで設計計算してみた結果をご紹介します。平成24年に近畿地方整備局が発行した設計便覧(案)に基づいています。

ただし、いずれの場合も自重に対して安定な地盤(N値10程度の砂質地盤相当)と言う条件があります。

これを満足しない場合の計算は、杭基礎を設計することになります。